印象が薄れないうちに書いておこう。
1年生を連れて行ったのは都写美の標題の企画展でした。受け付けの御姉様には同時開催の「日本の新進作家展vol.9 [かがやきの瞬間]ニュー・スナップショット」も勧められましたが、時間が無かったのでパス。
さてその企画展ですが、素晴らしかった。全てが素晴らしいわけではもちろんありませんが、ムンカッチ、カルティエ=ブレッソン、アヴェドンから入ってラルティーグ、木村、桑原、荒木と進む構成は良かったなあ。後半にもウィノグランドやデヴィッドソンの作品がまとまっていたし、学生たちもかなり刺さっていたのがポール・フスコ。最後が森山大道で、蛇足が鷹野隆大か。
レクチャーもしやすい構成だったと思います。まず入館前に「スナップ写真って何だと思う?」というテーマでディスカッションさせてから、写真の技術史の最初の方を説明して、スナップ写真がカメラやフィルムの技術発展の結果成立した視角表現であることを理解させる。見学後には、スナップ写真の最初の方が「一瞬を切り取る」「時間を止める」というところから「いかに意外な一瞬を切り取るか勝負」「いかにかっちょいい一瞬をゲットするか競争」へと発展し、続いてコンポラ写真とかの「みんなつまらないと思っているものを敢えて写して、その中の面白さを見つけよう運動」に進んでいったよねと解説。
そこから更に「しまった変なもの写しちゃった(笑)」へと発展し(ポール・フスコなんか典型で、最初はシリアスな作品かと思ったら後半になってどんどんネタ化していってる)、森山大道の「アタマで考えないスナップで、肘から先の面白さを狙う」に行って、最後の人は「つまらなさの追求で頑張ってるらしいよ」で終わる。どんどん視覚的なものから理屈で新しさを探してみた写真に変化してきているのがよくわかったでしょ、と。
それにしてもアヴェドンとカルティエ=ブレッソンの写真はやっぱ凄いです。あそこだけレベル違うオーラだった。すぐ近くに木村伊兵衛があったけど、なんかローカルヒーローだなあって気がしましたね。アヴェドンやカルティエ=ブレッソンはもう表現の強さがベラスケスとかデューラーとかのレベルなんです。掛け値無しのワールドチャンピオン。このクラスに較べると、木村も荒木も森山もかすむなあ。バルデス=レアルとかホセ=リベーラとかスルバランあたりのオーラですね。ローカル画家。特定の時代、特定の地域ではビッグネームだったけど、やはり若干の説明を要する作家。説明抜きに作品見せて、100人中99人は確実にため息つかすぞってレベルでは全然無い。
そして最後に飾ってあった鷹野隆大なんですが、これはもう、色々な意味で「やめときゃよかったのに」な感じがありました。ご本人によるコンセプト説明として、とにかく徹底的にフォトジェニックじゃない風景を「カス場」と名付けて、そういうものを大きく焼いてみましたこれがスナップ写真の最先端みたいな話があったんですが・・・・。コンセプト面で見ても全然ひねりが無くて、多分同じコンセプトで撮ってる人って100人くらいは居ると思うんです。渋谷区内だけで。たまたま木村伊兵衛賞を撮ったことがあるから見逃して貰ってるというか見逃されずに済んでいるのでしょう。当たり前ですが写真そのものも30分茹でちゃったパスタみたいな救いがたいものでして。ついでにカタログに載っていた文章も厳しかった。
写真において問われているのは「現実を現実のまま、いかに表現するかである」
それじゃ土門拳の「絶対非演出の絶対スナップ」と何が違うんだかわからんわ。
いや、この手の発想って80年代から90年代前半くらいのポストモダン流行期にはいっぱいあったと思うんですが、2011年にいまさらポモ+土門拳で自信満々にやられても。見なかったことにする以外、反応のバリエーションがありません。いやあ困った。
えーとそんなわけで、都写美の企画展、全体としてはお勧めです。