奇跡的公園

http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Siena_z01.JPGより)。2枚目は川崎市多摩区の稲田公園に隣接する街区公園。変な表現で申し訳無いんですが、私が観察したところ、この公園は稲田公園とは別の公園のようなんです。

 稲田公園はその規模からして近隣公園か地区公園、おそらく地区公園でしょう。駐車場、プール、野球場、ゲートボール場、雑木林、複合遊具などが連なるなかなかの規模の公園です。ところがこの稲田公園がまことに不思議な設計でして、周囲の民有地との境界があなたまかせ(笑)なんですな。つまり民有地側に塀なりなんなりがあるだけで、公園側にはなにもない。だから、民家の裏口がそのまま稲田公園に出る設計になっていたり(!)、梨畑の柵が公園のきわになっていたりする。

 この規模の公園にしてこのユルい設計。最高です。

 そして白眉とも言えるのが、その稲田公園と何となく地続きになっているこの街区公園。画像をよ~~くご覧になってくださいよ。木の奥に並んでいる民家。何と何と玄関が街区公園に面している(!!)

 いや、法律上、そういう家は敷地の接道条件を満たしていないから建てられないはずなんですが、そして地図上ではこの2軒の家の前には私道とおぼしき小径が街区公園との間に存在することになっているんですが(稲田公園と街区公園の間にも私道らしきものが地図上では存在しています)、実際には「玄関前まで公園の敷地」状態。

 良いなあ。こういう空間。何かこう、公園で遊ぶ子供たちが「見守られている」感じがするんですよここ。最近の宅地開発では、クルドサック(行き止まりの道)とかU字型の道路設計をして、街区内の家々の玄関前の空間をコモンスペース的に演出している所もかなりあるんですが、ここはもっと突き抜けちゃってますから。家の前を本物の街区公園にしちゃう。書類上は街区公園と敷地の間に私道があるんだけど、私道と街区公園の物理的境界を不明にしてしまったことで、家々(プライベート)と街区公園(コモン)の協調関係をよりはっきりさせているんですね。多分、偶然こういうものが出来ただけなのでしょうが。

 でも、こういう空間は、日本では珍しいけれどもヨーロッパでは当たり前のようにあるんですよ。その典型例がカンポ広場。広場を囲むように、広場を向いて家々が立ち並んでいる。日本だとどうか? 公園と民家が隣接する設計は区画整理で作った新しい街でも珍しくないですが、まず確実に民家は公園に背を向けて、なるべく公園を無視するような形で建てられます。公園は公園で、民家との境界には植栽を分厚くして、コモンスペースとしての公園とプライベートスペースである民家を物理的に分離しようとする。もちろん両者の間には塀や金網を設けておく。というか、出来ることなら公園は全周を公道で囲んでしまうのがベスト。そういう設計思想がある。

 でも、どうなんでしょうねえ。そうやってプライベートスペースから公園を隔離して作ることが、結果的に公園を荒らすっていうのかな。「公園のケアは行政の仕事でしょ」みたいな意識を生み出しているような気もするんですよ。

 この街区公園みたいな突き抜けきった設計の公園は、スレスレの都市設計をやらせたら日本一を自任する成瀬さんやその一番弟子の宇野さんでも、なかなか真似する勇気が無いと思いますけども、この空間のテイストは、これからの日本の都市設計の重要なヒントになる何かを隠しているはずです。