今日は本の紹介。
岡田貴久子『K&P』(理論社、1999年)
著者は童話作家なのだそうです。この本も童話というのか、SFというのか。ファンタジーといえばファンタジーだしなあ。
主人公は、(たぶん)マーシャル諸島に住む少年。マーシャル諸島の女性を母に、日本人を父に持ち、祖父は腕利きの伝統航海士で、主人公が11歳になった時に一線を引退し、航海カヌー「チェチェメニ号」を主人公に譲ります。
主人公は3歳の時から祖父に伝統航海士として鍛えられており、チェチェメニ号を手に入れた後の最初の航海で、自分の島から200km離れた「死の島」に行ってみようと思いつきます。「死の島」とは、そこに足を踏み入れただけで死んでしまうと恐れられている小島ですが、実は主人公の祖父、そして母の生まれ故郷でもあったのでした。
おわかりでしょうか。
何故、ミクロネシアの伝統航海士の生まれ故郷が「死の島」になるのか。下手人がいます。ご存じ、アメリカ合衆国です。主人公は、ビキニ環礁の水爆実験で故郷を追われた一族に連なる者だったのでした。
チェチェメニ号で「死の島」に足を踏み入れた主人公は、そこで不思議な少女に出会います。そこから物語は、現実と夢の世界を行き来しだすのです。
「島が夢を見ている」
これがキーワードになってきます。主人公の住む島々では、島は夢を見るようです。現実と「島の見る夢」が交錯する中、主人公は「ポルックス」と名乗る不思議な少年と出会い・・・・・・・。
あとはもう、実際に読んでいただく方が良いでしょう。
児童文学の体裁を使って書かれてはいますが、これはどちらかと言えば大人向けの物語だと思います。この本は伝統航海術やカヌー作りについても、かなり詳しいリサーチをして書かれていますね。「スターコンパス」なんて単語も出てきますけど、この概念はハワイでナイノア・トンプソンが作ったものですから、おそらくはホクレア号の話も著者は知っているでしょう。
それにしても、スター・ナヴィゲーションの海が、核実験の海でもあるということを、この本はあらためて思い出させてくれますね。先日紹介した阿部珠理さんの『アメリカ先住民』でも、ネバダやアリゾナの保留地が核のゴミ捨て場になっているという話があり、それは「環境レイシズム」であると書かれていました。マイノリティの土地に、ゴミや迷惑施設を押し付ける政策のことです。ちなみに、日本の核のゴミもまた、アメリカ先住民の土地に運ばれようとしているそうです。
もちろん、核のゴミなんか無い方が良いに決まっていますが、いまいきなり原子力発電所を全部止めて閉鎖するというわけにもいきません。火力発電が必然的に出す二酸化炭素を減らすという側面も、原発にはある。あちらを立てればこちらが立たない。しかし、放射性廃棄物はどこに置いておいても迷惑極まりないわけで、要するに、核というのは、今のところ、人類の手には余るものです。
じゃあどうしたら良いのか? とりあえず、必要の無いものは持たない。そこから始めるしかない。核・・・・兵器。これはもう明らかに何の役にも立たない木偶の坊ですから、さっさと手を切ってしまって良い。エネルギーの浪費も良くないし、いくら老後が心配だからって、それだけの理由で生めよ増やせよを続けて良いわけがない。
そういう不便さを生活の中に敢えて残しておくことが、そろそろ必要なんじゃないかと私は思いますね。その不便さは何故必要なのか、その小さな不便を無くしてしまうかわりに、どれだけ大きなものが奪われてしまうのかを、常に思い出すために、ですよ。