サイパン・グアム光と影の博物誌

 今日は本の紹介です。

 中島洋『サイパン・グアム光と影の博物誌』(現代書館、2003年)

 著者の中島さんは企業に勤めながら色々なことを勉強*されて、たまにそれを纏めた本を出されている方です。特にリモート・オセアニアには詳しく、「太平洋学会」という学会の理事も務められたことがあるようです。

 この本は中島さんがサイパンやグアムについて勉強された内容を纏めた本。

 『ハファダイ』という、北マリアナ連邦のPR誌に連載した記事から、55編を選んだとあります。

 この3章では「航海者たちの航跡をたどる」と題して、ミクロネシアやポリネシアの航海カヌー文化復興運動を紹介しておられます。デヴィッド・ルイスの研究から始まって、チェチェメニ号やホクレア号、マカリイ号、テ・アウ・オ・トンガ号の航海などに触れていますね。

 ただ、以前に『太平洋諸島百科事典』の中島さんの執筆分についても指摘しましたけれども、どうもハワイの航海カヌーについては事実誤認が多いんですねえ。例えばホクレアを木造としてみたり(ハワイの遠洋航海カヌーで木造なのはハヴァイロアとイオセパだけ)、マカリイ以外はデッキ部分に小屋があるとしてみたり(デッキ部分に小屋があるのはテ・アウ・オ・トンガや初代ハヴァイキヌイなどで、現代ハワイの航海カヌーではあまり見あたらない設計)、マカリイを水洗式トイレ装備としてみたり(たしかに海にするわけですから水洗といえば水洗ですがね)。

 逆に、ミクロネシアの航海カヌー文化復興運動については、知らなかった情報も結構あって、楽しめました。ミクロネシア連邦のサプアフィックSapwuafikという島にも伝統航海士がいるなんてのは初耳でしたが、中島さんはちゃんと典拠を示してくれておりますので、早速取り寄せてみたいですね。

 この本は、航海カヌーの他にも、考古学的な話題から太平洋戦争中の話まで、サイパンとグアムを多角的に捉えたなかなかの意欲作ですので、一読の価値は充分にあります(ただし、前述のような事実誤認は他にもありそうな予感がするので、この本をもとにして何か書こうとする人は、必ず典拠となった資料に目を通して事実確認をした方が良いと思います)。

* 私が航海カヌーの世界を「勉強」しているのと同じく、自分で何か新しい発見をしようとしている(=「研究」)わけではなく、既存の知識を学んでいるだけなので、「勉強」。