美術家たちの「南洋群島」展

 町田市の国際版画美術館で開催されている「熱帯・楽園・浪漫 美術家たちの「南洋群島」展」を見てきました。今日はこの企画展を取り仕切った学芸員氏のスライドトーク付きで,少々冗長でしたけれども,企画意図や企画の背景も色々と聞いてくることが出来ました。

 南洋群島というのは,日本が国際連盟で認められて現在のグアム準州を除くミクロネシアを委任統治していた時代に,これらの島々に対し日本人が付けた名称です。その期間は1921年から1945年までの24年間。この24年間に,日本の美術家たちが大挙してミクロネシアに渡航していたのですね。確認出来ただけで51人も居たそうです。といっても大半は旅行者としてミクロネシアを回って日本列島に帰っていっただけで,ミクロネシアに住み着いてしまったのは3人だけだったとのこと。

 その3人とは,ご存じ土方久功(ひじかたひさかつ)、そして宮大工出身で土方にパラオで弟子入りした杉浦佐助(すぎうらさすけ)、沖縄出身でテニアンで杉浦と共同生活をしていた儀間比呂志(ぎまひろし)らです。

 今回の企画展では土方の作品が48点,杉浦の作品で現存するものは全て,儀間は今回の企画展に描き下ろした作品を含む23点と,なかなかの充実ぶりでした。彼らの他にも染木煦 (そめきあつし) とか赤松俊子なんて洋画家も大量の作品が展示されてましたね。

 さて肝心の中身,絵画や彫刻としての出来についてですが,私の評価では,土方も杉浦も儀間も正直なところC級かなと。染木もC級ですね。まあ,これはプラド美術館やルーヴル美術館やウフィッツィ美術館のような,世界最高レベルのコレクションを持つ美術館に並んでいる作品と同じ土俵で評価しているので,気の毒な部分もあります。

 意外だったのは川端龍子ですね。川端も実はヤップに渡航したことがあったんだそうで,「椰子の篝火」という大作は,単純に美術作品として見れば今回はぶっちぎりの一等賞の名品でした。他にもヤップやパラオで描いたという素描がいくつかありましたけれども,「カノーに乗る男(1934年)」「戦闘カノー パラオ・コロール島(1934年)」など,カヌーを画題にした作品もいくつか。どれも佳作でしたよ。

 個人的に今回一番の掘り出し物だったのはポール・ジャクレー。パリ生まれで3歳以降日本で育った日本画家なんですが,これが非常に私好みの作品ばかりでして。帰りにポストカードを買おうと思ったんですが,残念ながら川端もジャクレーもポストカードは無し。赤松は油絵はC級とB級の間くらいなんですが,鉛筆で書いた素描はどれも雰囲気があって良かったと思います。

 作品の傾向についてですが,大半の作品は「南洋群島で俺もゴーギャンだぜ」というコンセプトが見え見えすぎでした。これは学芸員氏も指摘していたところで,結局,南洋群島に行った美術家たちのほぼ全てがそのノリでしかなかったと。ミクロネシアという土地と全力で向き合おうとしたのは土方と杉浦だけだったんじゃないかとのことでした。

 日本美術史における南洋群島の位置づけというのは,じっくり研究していくとそれなりに面白い本が1冊書けると思うので,この企画展をきっかけにして是非ともそういった方向の研究が進んで欲しいものですね。

こちらが公式ウェブページです
http://www.city.machida.tokyo.jp/event/shisetsubetsu/hanga/kikakuten/kikakuten03/index.html