おおきなかぬー

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 航海カヌー文化復興運動の震源地として名高い、ミクロネシア連邦のサタワル島。この島は、実は文化人類学、特に日本の文化人類学の世界では、チェチェメニ号とかホクレア号が名を挙げる遙か以前から知られた島でした。第二次世界大戦以前、1930年代にこの島で7年間も生活して詳細な調査記録を残した日本人がいたからです。

 土方久功(ひじかたひさかつ)。東京美術学校、現在の東京芸術大学美術学部の前身に当たりますが(つまり石川直樹さんの同窓の大先輩)、ここを卒業した後に何を思ったか突然、当時は南洋群島と呼ばれて日本に委任統治されていたミクロネシアに渡ります。彼は1929年から2年間をパラオで、続く7年間をサタワル島で過ごしましたが、最後は日本によるサタワル島の二人の酋長の処刑に荷担して島を去りました。

 立つ鳥、大いに後を濁してしまった土方ですが、ともかくその記録は極めて高く評価されておりまして、その著作集は日本語だけでなく英語でも出版されているほどです(篠遠喜彦先生もこれを大いに望んでおられたとか)。ちなみにレッパン師やユルピイ師がポウ(ローマ字ではpaliuwあるいはpalu)という、免許皆伝の航海師になったプォ(pwo)の儀式も、彼は記録しております。

 さて。そんな土方ですが、戦後は彫刻家・画家として活動し、ミクロネシアでの経験をもとにした絵本も何冊か出しております。

 その一冊がこれ。

大塚勇三(文章)・土方久功(絵)『おおきなかぬー』福音館書店、1962年

 内容はというと、何故かミクロネシアではなくポリネシアの伝説的な航海者、ラタの物語なのですが、土方の描く航海カヌーは明らかにサタワル・デザイン。民博に展示されているチェチェメニ号と同じく、舳先と艫にはサタワル流スター・ナヴィゲーション用の照準具がきっちり備えられたシングル・アウトリガー・カヌーになっております。

 お近くの図書館ででも探してみてくださいまし。

 こちらは奥様のインタビュー。

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 こちらはサタワルをフィールドにしている文化人類学者の須藤健一さんが土方著作集を英訳した後に「やしのみ大学」で行った対談です。

http://www.yashinomi.to/zatsu/taidan.html

 余談ですが、タウマコ島のカヴェイア酋長は、ラタの直系の子孫であるとされているそうです。