航海者の魂

 エリック・メッツガーさんが作ったラモトレック島のPwoの儀式のドキュメンタリー・フィルム「Spirits of the Voyage」を見終わりました。サタワル島の伝統航海士で、かのレッパン師の兄上であるジーザス・ウルピイ師(メッツガーさんのナレーションだと「ユルピイ」にも聞こえましたが)が、1990年代に、5人の青年たちにPwoの儀式を行って、彼らをPaluとした時のドキュメントです。

 ラモトレックの言葉には英語の字幕が入って、そっちは完璧にわかったんですが、メッツガーさんのナレーションの方は半分くらいしかわかりませんでした。まあ私の英語力は読むという所が突出しているので、英語の聞き取りに馴れている方なら8割くらいはわかると思います。残り2割はミクロネシアの伝統的航海術について予備知識が無いとどっちみちダメでしょうが。

 内容の方は、もう異常に貴重な映像ですね。カロリン諸島の人々の生活風景もくっきりわかるし、Pwoの儀式も時系列に沿って編集されているので、まさにそこに居合わせているような雰囲気で、儀式が始まってから終わるまでの4日間を体験することが出来ます。といっても、儀式そのものは長い長い時間を使っていますから、このビデオに収められているのはそのごく一部なんですけどね。

 印象に残ったのは、ウルピイ師が青年たちに航海士の力を伝える場面。ウルピイ師は長い呪文を唱えながら、青年たちの胸を指先で撫でていくのですが、最後に一人一人の腕をとって、椰子の葉で編んだ腕飾りを彼らの腕に巻き付けながら、こう宣言します。

「お前が乗り込むカヌーは固い岩であり、お前は固い岩である。
 お前が乗り込むカヌーは強靱な樹であり、お前は強靱な樹である。
 航海を恐れてはいけない。
 お前は航海士だ。
 今、私の手からお前の手に、奇跡の力を授ける。」

 こうしてウルピイ師は、青年たちに航海士としての覚悟と信念を伝えていくわけです。

 もちろん、青年たちはまだ航海士としては駆け出しで、この儀式の後に何日間も合宿してウルピイ師から航海の為の呪文を沢山教わりますし、実際に海に出ても、例えば全盛期のウルピイ師やレッパン師、マウ師のような能力を発揮するにはまだまだ時間がかかるでしょう。

 ですけれども、実は本当に大事なのは、絶対に目的地にたどり着くんだという信念を己の中に持ち続けられる強さを持つことなのかもしれません。かつてマウ師がナイノア・トンプソンに、ラナイ・ルックアウトから「タヒチを見ろ」と教えたように。その覚悟、その信念を、マウ師は静かにナイノアさんに伝えましたし、ウルピイ師は、かくも詩的な詠唱をもって、青年たちに航海者の魂を受け継がせたのでしょう。

 ウルピイ師が彼らに伝えたのは、奇跡の力というよりも、自分を信じ続ける力だったのかもしれないですね。

 エリック・メッツガーさん謹製「Spirits of the Voyage」、アメリカ国内定価30ドル、海外発送45ドル、ラモトレック島の航海カヌー再建寄付金付き。

 お奨めです。