Can we fall in love (with Eco Tourism) at first sight?

 ここしばらく、先住民ツーリズムの話が続きました。

 それにしても、なんで航海カヌーと先住民ツーリズムが関係あるのかと怪訝に思った方はいらっしゃるでしょう。

 私が何故、先住民ツーリズムに注目するのか。理由はいくつかあります。

 まず、日本と航海カヌー文化復興運動の繋がりを考える為には、日本列島にこれまでどういった人々が渡ってきて、暮らしてきたのかを知る事が大切だという認識があります。例えばブラスト=ベルウッド仮説のように、台湾島がリモート・オセアニア諸民族の直接の源境であるとしたら、台湾島と黒潮によって繋がる日本列島の各地の海洋文化を見ていく事は、非常に大切です。

 また、台湾島のすぐ北にある琉球諸島の人々は、本州島や九州島の人々とは若干異なった出自を持っておられますし、自然人類学は、その琉球諸島と北海道島の先住民たちが形質的に極めて似ていると指摘しています。

 つまり、航海カヌーの民と日本列島の先住民は、それなりにご縁がある。

 ならば、そういったお話を学問の分野で見ていくだけで良いではないか。そういう突っ込みもあるかもしれません。

 しかし、私は、以前にも書いたように、先住民といえども現代の地球の住人であるという点で何ら他の多数派の人々と変わりなく、本州島民である私の隣人である事は疑いありません。としたら、彼らの過去にのみ興味を抱くというのは、甚だ礼を失した態度であると言わざるを得ません。彼らは彼らで、遠い昔に航海カヌーの民と分岐してから、現代に至るまで、独自の歴史を積み重ねてきたわけです。彼らがどういった人々であるかを知ろうとするならば、出来るだけその全体像を見た方が良い。

 そして、これも以前に書きましたが、現在の彼らがグローバル化経済の中でその尊厳を保っていく為には、多かれ少なかれ、貨幣経済とつき合わざるを得ないですよね。その一つの手段が先住民ツーリズムです。私は日本列島の多数派の住民として、日本列島の周縁部の先住民たちといかに良い関係を築いていくかを真剣に考えたいと思っています。だから、先住民ツーリズムに注目する。

 また、航海カヌー文化復興運動の価値が日本の社会に広まって行く際に、教育の分野は非常に重要だと思っています。航海カヌー文化復興を日本の子供たちが知る事は、日本と太平洋諸島の未来、地球環境問題、マイノリティ問題などに良い影響を及ぼすでしょう。しかし、余所の土地の先住民である航海カヌーの民だけに注目していては片手落ちです。日本の子供たちが航海カヌー文化復興運動について学ぶのであれば、同時に、日本国内にも先住民問題はあり、それに真摯に取り組んでいる方々がいるという事を知らなければいけない。
 
 しかし、それは「こんなにひどい目に遭っている人たちがいる。可哀相ですね。」だけではいけません。「そういった問題について、大人たちは何をしてきたのか?」「自分たちは、何をしていけば良いのか?」そういったお話もしなければならない。だから、先住民ツーリズムに注目したい。そういう事です。

 ・・・・・ここまでが今日の前置き。

 実は、この夏に夫婦で少し時間が取れそうなので、藤崎達也さんが先住民ツーリズムに取り組んでいる知床に行ってみようと思っています。もちろん、藤崎さんのNPO SHINRAにお願いしてガイドツアーに連れて行って貰うつもりです。去年の夏はわざわざ日本からトレッキングブーツやゴアテックスのウェアをハワイまで持参して、二人して散々にハワイの野山を歩き回ってきましたからね。しまいには息が上がって立ち上がれなくなるくらい(それってトレッキングなのか?))。知床五湖やエゾシカトレッキングの他にシーカヤックツアーもあるし、かなりワクワクですよ。出来れば2日間くらい使いたいですね。それから屈斜路湖、釧路湿原と回って、カヌーやトレッキングを堪能しようという旅です。

 いや、それで、じゃあちょっと知床について調べてみようとamazonを覗いたのですよ。まずはガイドブックが欲しいですよね。ところが、何を買ったら良いのかよくわからない。「るるぶ」や「まっぷるマガジン」は本屋でちょっと覗いてみましたけど、エコ・ツーリズムや先住民ツーリズムに興味がある人間、あるいは一つの地域について深く学びながら旅をするような人間には、殆ど何の役にも立たないんです。下請けの編集プロダクションのやっつけ仕事って感じです。

 さあ、困った。どうしよう。

 そこでふと気が付きました。「これってもったいないよな。」

 私たちは、旅行の計画を立てる段階から、既に観光をスタートさせています。その土地で自分は何に出会えるのかを想像しながら、ああでもないこうでもないと、計画を練る。この段階もまた、バカンスの楽しさの重要な一部です。

 それなのに、「るるぶ」「まっぷる」みたいなマス・ツーリズム誘導本しか手に入らないというのは、先住民ツーリズムやエコ・ツーリズムにしてみれば、みすみす商機を逃していると言って良いのではないでしょうか? 「お、これはこの次の休みに行ってみたいな。」と思わせるような専門ガイドブックが容易に手に入る事は、先住民ツーリズムやエコ・ツーリズムにとっても大事なことだと思います。旅は、リビングルームから既に始まっているのですから。

 リビングルームで一気に惹き付けてしまう、リビングルームから始まる。これは、先住民ツーリズムにもまた、必要なあり方ではないでしょうか? 

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 藤崎達也さんのNPO SHINRAは今日から3日間の日程で「世界遺産と先住民族とスピリット」を開催されます。知床グランドホテルにて。「リビングルームから始まる先住民ツーリズム」というネタふり、誰かやってくれないかな(笑)。

http://shinra.upper.jp/blog/archives/000442.php