予告通り「竜が居ない国」Ver.Kを角川春樹小説賞に送ってきました。
Ver.Fと比較すると
Ver.F 170796文字 原稿用紙換算483枚
Ver.K 157323文字 原稿用紙換算452枚
ストーリーは全く同じですが、冒頭の財務庁庁舎内での会話シーンが、かなり減りました。
それから「兵站貴族」の設定がかなり取り込まれています。
Ver.Fではイェビ=ジェミ隊長とシムロン・グウィルはお互いのことを知らない設定になっていたのですが、「兵站貴族」で二人はお互いに一目置く関係になっているので、Ver.K ではイェビ=ジェミは途中でラスボスがチェレク連隊の切れ者参謀であることに気づきます。
また、金融システムや物流システムも「兵站貴族」で細かく書き込んだ設定が「竜が居ない国」で秘かにアプデされました。例えば送金のシーン、Ver.Fは口座送金ですが、Ver.Kでは手形送金になってたり。
逆に、アルソウム地方の地理や歴史についての余談的なものは全部落としました。これは、
「どうせ続編や短編で書けるから良いや」
という判断です。シリーズ化したことで、脇道みたいなものは、また別の機会に、という処理が可能になった。
そうやって設定や余談関連で2万字以上削ったんですが、その代わり、メインキャラ3人の人間関係についての書き込みを5000字以上足しました。それぞれがお互いの行動原理を理解していくプロセスの書き込みが足らないなあと思っていたので。みんな非テンプレキャラなんで、キャラ同士のコミュニケーションが非常に難しい。それぞれのキャラの内面にあるものを、ぎりぎりの対話を重ねながら浮かび上がらせる。
例えばイェビ=ジェミ隊長は何故、ソルの仕事を請けたのか。これ、実は私もよくわかっていなかったんですよ、Ver.Fでは。彼の原形になったディエゴ・アラトリステはカネ次第で結構なんでもやるキャラでしたから、最初は私もそういう風に書いていたのです。しかしその後の彼の活動を見ると、これはカネで動くやつではないけれど、大義や信念があるわけでもないなと思えてきました。
では、彼の動機は何か。私も、主人公ヴェレン・ソルも、それがはっきりとはわからないまま、彼に仕事を依頼していて、何と言えば彼が受注してくれるのかわからなかった。
レネル・リムが仲間に加わるシーンもです。彼女の動機は明確で、とにかく今いる場所から先に進みたいということだけを考えている。それはヴェレン・ソルも理解している。でも、だからといってそう簡単に仲間に加えるわけにはいかない。ここも悩んだ。
ちなみに、どちらのシーンでもキャラは結論を持っているんですよ。イェビ=ジェミはソルの仕事を請けるつもりだったし、ヴェレン・ソルはリムを連れていくつもりだった。でも、彼ら自身が何故そう考えたのかを理解していない。
わかりますか、これ?
- キャラは結論を持っている
- しかし、キャラ自身、何故その結論になったのかが言語化出来ていない段階である
- だから、作者は「キャラが自分の考えを言語化出来ていない状態で意思決定する様子を言語化しなければならない」
これがおそろしく難しかった。
なんとかかんとか、書けたような気はしますけどね。結果的にはVer.FよりVer.Kのほうがテーマが明確になったので、大幅に進化したと思っています。これも書き続けた結果ですね。
角川春樹小説賞のリザルトは半年後。プロアマ混合の賞で直木賞の候補歴があるような人たちが賞金狙いで出してくるとこですから、ファンノベよりレベルは高いでしょう。が、まあ商業作品でもしょーもないものは山程あるんで、あとは運。ここでご縁が無ければ、予定通りセルパブに進みます。