リオの時はどうでしたっけ

與那嶺恵理が東京オリンピックの代表選考について仲裁申立した権。内容がわからないので何とも言えない部分はあるが、単に男女で基準を揃えろというなら、男子のWT重視の選考を女子の全日本選手権まあまあ重視の選考に合わせるという手もある。全日本でワンチャン逆転アリの可能性を残しておいた方が選手同士の切磋琢磨は機能するはず。
 
その最も顕著な事例がリオ五輪女子RR選考における全日本一発勝負で、もしもUCIポイント上位がそのまま出場ならば、選考基準が出た瞬間に萩原麻由子で確定で與那嶺のチャンスはほぼゼロだった。ところがJCFが全日本一発勝負としたおかげで、與那嶺は全日本で萩原を下してリオに行けた。だからリオの時も男女で選考基準は全く異なっていたが、與那嶺はそれについての仲裁申立などしなかった。
 
現在WWTを走っている女子選手は與那嶺だけなので、WWTでのポイント獲得で代表ほぼ確定であれば、與那嶺以外の女子選手のモチベは著しく下がる。全日本でワンチャン逆転ありかも、という夢を残しておくのはアリだろう。(とはいえ他の選手が與那嶺に勝てるとは思えないが。UCIポイント獲得であれば與那嶺と互角である梶原悠未はトラックのエースであるし、実績から言ってメダルに最も近い女子選手でもあるからロードレースには拘らないだろう)。
 
付言すると、女子のプロ選手の賃金は男子と比較すると極めて低いので(與那嶺より2ランクくらい格上のエース級の選手でも年俸400万円程度と聞いたことがあるが事実確認はしていない。仮にその金額しか支払われないのであれば、EU内での労働許可は得られない。ただしオランダだけは被雇用者になるのでなければ居住ビザは日蘭通商航海条約により日本人は簡易に得ることが出来る)、日本からワールドツアーに挑戦することへのハードルは男子に比べて極めて高い。選手個人に年間数百万円の資金援助をしてくれるスポンサーがいなければ(あるいは選手本人なり実家なりが相当な資産家でなければ)、スポット参戦するしかないのである。
 
つまり、WWTの重み付けを強化することは、競技力以外の資金力で決まりやすくする、ということでもあり、アマチュアリズムを旨とするオリンピックの選考としてその辺のさじ加減は難しいだろう。
 
また、選考期間を前に伸ばして今年1月以降のレースを対象に加えろというのであれば、その瞬間に與那嶺で決まってしまう。他の日本人女子選手は4月以降で勝負と思って準備していたのだから、勝負が始まる前にルール変更で負け確定にされてはたまったものではない。
 
結局、仮に選考基準を男子のそれと同じように書き換えろという要求であれば、それで得をするのは與那嶺恵理だけということになる。與那嶺が日本の女子RR全体のことを考えて行動しているのかどうか、自分にはわからない。実績は圧倒的な絶対王者なのだから、もっと懐の深さを見せても良いのではないか。大横綱が十両を相手に細かいことに拘ってもしょうがない。むしろ器が小さく見えてしまう。どうせオリンピックには出られるのだから。
 
仲裁を申し立てることは別に良いと思うが、せめて與那嶺はリオ選考においての自分の立ち位置の総括をしてから、の方が、筋が通るのではなかろうか。

これに対し仲裁機構は「男女の選手状況に基づいて異なる選考基準を定めたことにはそれなりの合理性が認められ、男女平等の原則に反するとは言えない」などとして與那嶺選手の申し立てを棄却しました。
これについて與那嶺恵理選手は「今回の仲裁機構の判断はとても残念です。ほかの競技では男女で異なる選考基準はなく、このような判断が出たことに正直、とてもショックを受けています」とコメントしています。
とはいえ、6月末の全日本選手権ではこれも私の予想通り與那嶺が圧勝しているので、「代表選手にふさわしくない振る舞い」条項でJCFに刺されない限りは、東京オリンピックの1枠は間違いなく與那嶺だろう。今年もジロローザでは見せ場無く終わったが、来年は全日本が終わったらジロローザはスキップしてオリンピックの準備に専念でも良いのではないだろうか?
また申立の内容を見ると、単に與那嶺は「女子の選考基準を取り消せ」とだけ要求していたようである。
だが、男女で基準が異なるのは事実としても、それだけではどちらが差別的というものではない。男子のそれに対して女子が明確に被差別的であることを論証しなければ、男子を取り消して女子に合わせろという主張も、男女で基準が異なるという事実からは同じ論理の強度で導ける。結局何がしたかったのかよくわからない。JCFと喧嘩がしたかっただけという推測さえ成り立つ。その気持ちはある程度わかるが、このレベルの論理構築では「ああ、ほんとだね、男女で基準が違うのは確かだね」という以上の感想は出てこない。
なにしろJCFの答弁を見ると、女子は男子と違ってメダルが狙えるからとあって、つまりJCFサイドは現在の日本のロードレース選手で唯一メダルが視野に入るのは與那嶺だけだと言っているに等しいのだ。この言明を素直に受け取れば、むしろ男子の方が女子より差別されている/馬鹿にされているという論理さえ成り立ちかねない
ともあれ、「東京オリンピックが終わった時点で貯蓄5000万円を積み上げた状態で引退」という彼女の目標に向かって、これからは余計な舌戦にエネルギーを使わずに邁進してもらいたいものである。