資産形成が出来ないプロスポーツ選手がすべきこと

自転車の女子ロードレースの選手であるということを、収入と人生設計の面から考える。
まず、女子ロードレース選手で、選手活動にギャラが出るのはUCIプロチームでも、各チームのエース級の数人。額も驚くほど低い。額面で月給5万円から20万円程度。しかも20万円ももらえるのは世界選手権で表彰台を争うクラス。
万が一、個人スポンサーが付いたとしても、その額はせいぜい数万円から数十万円。焼け石に水と言うレベルで、食費や機材費や遠征費を賄うには到底足りない。特に日本人だと、UCIレースが全日本選手権(と、たまにやってくるアジア選手権)しか無いから、ポイントを稼ぐために欧米や東南アジアに行って来るだけで20万くらい軽く使ってしまう。
だから、プロと言っても有力チームのエース級なら億のカネを稼げる男子とは違って、女子はアメリカやヨーロッパの活動拠点から遠征費用との見合いで、出られるレースに契約選手として出つつ、本業もこなし、大一番(ローザ)だけは何とか頑張って走りに行く。これが女子の普通。つまりダブルワークだ。
このようなキャッシュ・フロー環境をどう人生設計に組み込めば良いのか。
抑えておきたいのは、ここではスポーツの本質、出発点により近い形で競技が行われているということ。スポーツとは、まずはそれをする人の心身の充足感や楽しさなど、主観的な価値を得るために行われるもの。
"to play in a happy and lively way"
自分のお金や時間を、楽しみを得る為に使う。その競技環境の一部が企業から提供されるのが女子プロ。
一見これは惨めな世界にも思える。
しかし、見方を変えれば、より地に足の着いたスポーツとの関わりということも出来る。プロ選手としての生活と日常生活との両立を追求する中で、選手たちは個人としてもビジネスパーソンとしても成長するだろう。その中で得られたスキルや経験や人脈や信用が、その先の人生で財産となる。
先に見たように、女子ロードレースでは、男子と違って資産形成はどうソロバンを弾いても不可能だ。仮に年間500万円くらい稼ぐトップ選手だとしても、そのレベルを維持するための出費は400万くらいかかる。貯蓄や株式投資に回せるキャッシュなど無い。
だからこそ、個人事業主として自分の財務状況をきちんと把握し、幅広い人間関係を築き、営業経験を積み、何が自分の「プロとしての価値」なのかを把握し、それを最大化し、信用を積み上げるというサイクルに本気を出さなければいけない。
こういう部分を他人に丸投げしてしまうとどうなるか。プロ選手として活動する中で真に身につけるべきスキルセットが一切身につかないということになる。しかも商売柄、現役である間は資産形成も出来ないのだ。
まあ、その他人が親ならばまだマシだろう。少なくとも引退とともに放り出されることは無さそうだ。
だが赤の他人に選手としてのマネジメントを丸投げしてしまうとどうなるか。想像するだに恐ろしい。プロで10年走っても貯金ゼロ、自転車に乗る以外のスキルもゼロの、ゼロゼロ状態でリリースである。いや、ゼロゼロリリースならまだマシだ。下手をすると借金まで作らされて、親の退職金や家まで失うかもしれない。自分の名前を胡散臭い話で勝手に使われているかもしれない。そうなればマイナスリリースだ。
くわばらくわばら。
30~35歳でレースキャリアを終えた時、当然、時間は余るし出費は減る。つまり、次の何かを始める元手が生まれる。その時、走る以外のどんな価値が自分にあるのか?
自転車に限らず、稼げない競技のプロ選手が本当に見つめるべきはそこだ。スポーツで稼げることの方が人類社会では異常な例なのだ。特に女子で稼ぎたければテニスかゴルフかフィギュアスケートしかない。カネが好きならMBA取って外資系金融にでも行きなさい(ウォール街での金融キャリアを中断して20代をトッププロとして過ごしたエヴェリン・スティーヴンスみたいな選手も居るけどね)。