武田綾乃『立華高校マーチングバンドへようこそ』書評

武田綾乃『立華高校マーチングバンドへようこそ』前後編を読了。

残念ながら北宇治高校編と比べると数段落ちる。

どちらも王道青春スポ根部活もの+ボディパーツのエロティックな描写を重視した百合カップル大量投下+純文学っぽい情景描写というストラクチャなのだが、立華高校編は主人公の梓ちゃんの悩みやキャラが頭で考えて無理やりはめ込んだようなもので、未来先輩、南先輩、杏奈先輩、栞ちゃん、あみかちゃん、双子姉妹といった脇役たちも北宇治高校編のキャラの劣化コピーに思える。

また桃花先輩の後輩指導はおそらく本作執筆の時点でも人権侵害・パワーハラスメントに認定されるレベルで、フィクションなんで別に桃花ちゃんがそれをするのがダメとは言わないけれど、私は読んでいてかなり不快であったし、何よりこの人材マネジメントでやっていたらブラック部活で、きっと病んでしまう生徒もいることだろう。

武田綾乃が小説家として圧倒的な才能と実績を持っていることは疑い無いのだが、こういうところでは学生からそのままプロ作家になってしまったことによる、組織や人間集団への理解の浅さが露呈してしまうように思う。

もちろんユーフォニアムシリーズの主要顧客層はこれくらいでも大満足(アマゾンレビューを見る限り)なのだし、ベストセラー作家とて毎回毎回、北宇治高校編のような名作を書けるわけがないから、安定の味を少なくとも既存顧客に提供出来た武田綾乃はやはり凄いのだ。