東京ステーションギャラリーで「シャガール 三次元の世界」を見てきました。
シャガールはロシア出身の20世紀の画家で、世代としてはレオナール・フジタ、ピカソ、ブラック、デュシャン、キリコ、マン・レイらとほぼ同じ。
えっ? マン・レイとそんな近かったんだ! ということを私も今気づきました。
シャガールが1887年生まれ。フジタが1886年、ピカソが1881年ってピカソのが年上じゃん! デュシャン1887年、キリコ1888年。ブラック1882年、マン・レイ1890年。
マン・レイと3歳しか違わないのか。そして現代アートの創始者デュシャンと同い年。
へええええ。
なんでそういうことに気づきにくいかというと、シャガールという人は我道を行くタイプの作家でして、特定の時期に流行ったナントカ主義を代表する作家というポジションじゃないからなんです。フジタといえばエコール・ド・パリ、ピカソとブラックはキュビスム、デュシャンは「泉」、キリコとマン・レイはシュールレアリスム。マン・レイは写真史の方ではストレートフォトの源流であるウジェーヌ・アジェが注目されるきっかけも作ってますね。
シャガールはというと、今日の展覧会でも初期作品にはキュビスムの影響が強い作品がありましたが、その後はあのシャガールの世界を打ち立てていく。誰も付いていけない。空飛ぶ牛と鶏とロバと恋人たち。イエスとダビデと旧約聖書とロシアの町。言葉通りの意味でぶっ飛んでる。何でも夜空をぶっ飛んでる。
だが、それが良い。
私は1993年に目黒区美術館で版画展を、2002年に東京都美術館でポンピドゥー・センターのコレクションを中心とした展覧会を見ましたが、今回のこれはシャガールの彫刻や陶芸作品が多数集められていて、それが予想以上に素晴らしかった。シャガールのあのキャラが立体化されているんですが、立体化しても破綻しないんですよ。面白いことに。
ルノアールにしろピカソにしろ北斎にしろ、2次元だからこそ成立する形でございましょう? シャガールはなんとなんと、3次元に起こした方が良いくらいに破綻が無い。アニメキャラがフィギュアになってなるほどなってなるのと同じくらいに、3次元化が上手く行っている。
そしてもう一つ。展覧会のカタログの論文には、シャガールの彫刻とロマネスク彫刻の類似性の指摘があったんですが、私はむしろシャガールのネタ元の一つであったキュビスムが3次元化されたという印象を持ちました。
それが具体的にどういう効果を産んでいるかというと、彫刻を正面から見て、そっから右回りや左回りで彫刻のサイドやバックを見ていく時に、掘り出されたキャラの別のサイドが、そのキャラの別の時間になっているのです。
わかりにくいよね。
例えば。
正面から見ました。恋人たちが抱き合ってます。
右に回り込みました。カノジョの横顔と、その後ろから見上げるロバだか羊だかの構図に切り替わる。その時、カノジョの表情も微妙に変わっている。つまり正面とは違う瞬間になっている。
さらに回り込む。また微妙に違う瞬間が掘り出されている。
うわーこれ面白い。4次元彫刻だ。
ロマネスク彫刻にしろミケランジェロみたいなルネサンス彫刻にしろロダンの近代彫刻にしろ現代の萌えキャラフィギュアにしろ、ある作品はある対象のある瞬間を固定して3次元化していますやね。
シャガールは違う。見る位置によって違う瞬間が、一つの彫刻作品の中に打ち込まれている。まさにキュビスムですよ。
やるなあ。一個欲しいです。
彫刻だけでなく絵画も非常に良い作品が多数集められていたんで、これはホントお勧めの展覧会ですよ。