34年前の大ヒット映画を見てディテールがどこまで事実か調べたら、AOCS(海軍航空士官候補生学校)という組織は無くなっていた。

今更ながら、1982年のアメリカ映画「An Officer and A Gentleman」を見ました。

あの超大ヒット作です。邦題が凄すぎたんで今まで避けてましたが、最近、避けてきたものを試してみようかな運動をやってまして、「SLAM DUNK」「TOP GUN」「亡国のイージス」に続き・・・・です(亡国のはギターのピックアップ交換しながら見てたらよくわからないうちにドタバタ展開して終わってました)。
さてその大ヒット作ですが、邦題付けた人、悩んだのかなあというのが最初の感想。
一応あらすじを書いておくと、フィリピンの米海軍基地育ちで一応大卒のダメ人間(リチャード・ギア)が、このままでは父親と同じダメ人間のままだと一念発起してAOCS (Aviation Officer Candidate School:大学在学/既卒者を対象とした海軍のパイロット養成学校)に入学し、鬼教官のシゴキに耐えて立派な士官になるお話です。
確かに田舎町の娘との恋愛もあるし、青春だし、最後は旅立つんですけど、これ恋愛がテーマじゃないし、青春がテーマじゃないし、旅立つのは最後の数分間やんけ。恋愛要素を切り捨てても話は成立するし、青春を脱して一人前の大人になる話だし。
この映画の主題は、大学生が職業人としてのスタートを切るまでの移行(transition)プロセスですよ。私が仕事で散々扱ってきた領域。主要登場人物の3人はそれぞれ自分の親のありように反発しながら、自分はどうやって家庭を持ち親になるべきかを考えてましたよねえ。
主人公がヒロインをあくまでも遊び相手と位置づけていたのが、最後突然嫁取りに工場へ乗り込んで行くの何でやねんというとこも、transitionという観点で見ると説明出来ると思うんです。良き父親になろうとしていた親友シドが女に騙されて自殺して、教官に話がしたいと申し出る。教官がシドの除隊と死に責任が無いのは既に示されているので、リチャード・ギアは教官に苦情を言おうとしたのではなく、まあ八つ当たりっすよね。そこで普通なら放校になるような暴走モードに入っちゃったギアメイヨーを教官はわざわざ相手してくれて、不問にしてくれた。つまりフォーリー軍曹はここでメイヨーより視点が高い、教育者あるいは親というポジションです。
そんで卒業式でメイヨー少尉が、フォーリー軍曹に、あなたのお陰で卒業出来た(I wouldn't have made this if it weren't for you)と言ったということは、メイヨー少尉は卒業時点で、フォーリーの視野、つまり候補生の人生を背負った視点を理解していたということになる。じゃあ自分も自分以外の人間(ヒロイン)の人生の責任を背負ってみようかということでラストシーンに繋がる。
・・・という感想ももちろんあったのですが、欧米のフィクションの考証を仕事にしていた時期も何年かあったので、むしろ私が気にして色々調べたのは、そっちです。
まずこの学校は何なんだと。海軍の士官養成所といえばアナポリスの海軍兵学校が真っ先に出てきますが、あそこは4年制なので3ヶ月で卒業するこの学校ではない。ああ、アナポリスは高卒で入学するとこで、こっちはもう大卒の連中が入るとこなのか。
で、そのOfficer Candidate Schoolって定訳あるんだろうか? 検索してみますと、日本語空間でアメリカ海軍の士官養成学校について書いているものの殆ど全てがアナポリスのお話で、どうもOCSの定訳は無いようなんです。大ヒット映画の舞台なのに! 海軍戦闘機兵器学校はトップガンで通るくらい知られてるのに!!
面倒くさいのは、OCSという組織は元々二つのコースが別々の場所にあったので、統一した名前を付けづらいということでしょうかね。
航空関係の士官(操縦士に限らず海軍の飛行機関係に関わる士官全て)を担当するのがAOCSです。リチャード・ギアのとこ。これはフロリダ州ペンサコーラにあった。で、それ以外の士官養成のOCSはロードアイランド州ニューポートにあった。これが1994年にペンサコーラに統合されてOCSに一本化されたんですが、2007年にニューポートに戻った。なので今はAOCSというコースは存在しません。
さてこれどう訳しますかね。AOCSは海軍航空士官候補生学校、OCSは海軍士官候補生学校でしょうか。アナポリスは海軍兵学校が定訳だから、なんとかなる気がする。
それから、調べてて気づいたんですが、最初にフォーリー一等軍曹が出て来るシーン。多分アメリカ人だったら、あそこで彼が海兵隊員だってことわかるんでしょうね。フォーリーが着ているのは海兵隊サービスユニフォームBという仕様。カーキのシャツに同色のネクタイで、ズボンは濃緑。一方、候補生たちが着るのは普段着としてサービスカーキ(ネクタイ無しの開襟シャツ)、お洒落の時はフルドレスブルーやフルドレスホワイト。
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(右端が一般兵曹用サービスユニフォームBです)

卒業式の時に少尉になった主人公たちは一番格式が高いフルドレスホワイトで、腰にはカットラス(片手剣)があります。海軍では礼装でカットラスを持てるのは士官だけ(当時)。細かいですがちゃんと演出になってるんですねえ。
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(海軍士官フルドレスホワイト、カットラス付き)

面白くなってきたんで、この映画に描かれているOCSがどれくらいリアルなのか更に調べてみたら、さすがアメリカ、OCS出身者のこんな書き込みがありました。

The most unrealistic thing about the movie was the premise that local girls want to marry officer candidates. Not so in Pensacola or Newport RI, where OCS was in those days. The locals actually called us behind our backs "cockroaches" because we wore all black and had to run away to our barracks by 10 pm.

自分は1983年にニューポートのOCSに入ったが、OCSの候補生がモテるなんて嘘だと。自分たちは地元民からはゴキブリと呼ばれていたよと。
作中で中途脱落することをDOR(Drop on Request)と言ってたけど、俺が居たOCSはDE(Dis Enroll)だったなあという証言もありました。
一方、AOCSに居た人は、こっちはDORだったよと書いてたりします。あと、フォーリー軍曹は実際の教官にそっくりなんだけど、実際には教官は候補生を叩くことは厳禁だったので、作中の格闘シーンは現実にはあり得ないねえ・・と。

The Drill Instructor portrayal by Louis Gossett is VERY true to life! While they cussed us, screamed at us, pushed us physically and looked for what would "trip" us up, they also, in retrospect, wanted us to succeed. One thing they never did, and would have been severely disciplined for, was hit us, so the fight scene, while improbable, works in the movie. 

この仕立てのアメリカ映画って、1984年には「ポリスアカデミー」、85年には「トップガン」と立て続けに出ていて、本作の主人公メイヨーと「ポリスアカデミー」のマホーニーがいずれもアイルランド系というのも似てますね。他にもいっぱいあるのかもしれませんが、そもそも映画に疎いので。。。。