ちょっとステキな土曜の午後を

 日本の子供達の「学力低下」が問題になっています。OECDによる国際テストの結果を受けた文部科学省も公式にこれを認めました。やり玉に挙がったのは「ゆとり教育」「学校週5日制」「総合的な学習」です。現在の論調の主流は「学校週5日制」「総合的な学習」が基礎学習の時間を奪い、さらに「ゆとり教育」思想のもとに2002年度から導入された学習指導要領が学習内容の大幅な削減を行った為に、「学力低下」が発生したというところでしょう。面白いのは、現場に近い所で物事を見ている人や教育政策の変遷を知っている人ほど、このような単純な図式化には懐疑的だという事です。むしろ1992年に文部省が示した「新しい学力観」こそ問題だという意見もありますね。だいたい新学習指導要領が完全導入されてからまだ日も浅いですし、学校教育というのは社会の変化の影響を大きく受けます。教科学習以外の様々な教育の影響もありますから、漢字書取りの時間をこれだけ増やしたからホイ20点アップだとか、百マス計算さえやらせておけば一律30点アップなどという単純な世界では無いのです。現に世田谷区で実施された調査では、学校ごとの教科学習の時数と生徒の平均点には何の相関も見られませんでした。

 さて、とはいえ「学校週5日制」「総合的な学習」には今や(まともな学術的議論とは離れた所で)とてつもない圧力がかかっており、その運命はいまや風前の灯火。しかし、それで本当に良いのでしょうか。私は「総合的な学習」によって素晴らしい成果を上げた事例を(詳しくは書けませんが)実際に知っております。せっかく始めたんだし、このコンセプトを結果も出ないままに捨ててしまうのは惜しい。

 そんな時、私の母校が面白い取り組みをしているのを知りました。私の母校は私立の中高一貫校なのですが、私学には珍しく完全週5日制です(私の時代は土曜もあった・・・)。それで進学実績も別に落ちていない。『サンデー毎日』にその手の記事が出ると必ず名前が出てくる学校で(私は極めつけの落ちこぼれでしたが)、東大だの医学部だのに毎年ジャンスカ生徒を突っ込んでいる。じゃあ土曜日の学校はいったいぜんたい、どないなっとるのか。調べてみた私は、「土曜学習」なるものの存在を知りました。これは私の母校がある地域で幅広く行われている教育実践で、土曜日は様々な学外の講師を呼んで、教科学習ではない勉強をしているらしいのです。私の母校はこの企画運営そのものも生徒がやっているそうです。そうだよなあ。先生はみんなズブくて仕事しないんで有名だったもんなあ。特に数学のあいつとか・・・・。

 なるほどね。それは面白い。うちの母校に限って言えば「教師はあてにならない、勉強は自分でやれ」という意識が共有されていましたから、どうせ家で勉強しとるんでしょうが、それは別にしても「土曜学習」というコンセプトは面白い。

 ここで私はハタと閃きました。ホクレアが取り組んでいる活動の目標の大きな部分が子供達の教育です。近年ではホクレアの航海は必ず学校との連携を伴っています。それだったら、「土曜学習」や「総合的な学習」のテーマとしてリモート・オセアニアの航海カヌー文化復興運動を取り上げてもらったら面白いじゃないか。単にホクレアについて勉強するだけじゃなくて、ホクレアがハワイに帰っていった後、自分たちに何が残るのか、自分たちはそこから何を学んでいくべきかを、日本の子供達にも考えてもらう。インターネットの片隅の暇人と違って、真面目にホクレアについて勉強してからコンタクトを取れば、先方も無碍にはしない・・・・・・と良いな・・・・・・。

 先生方、いかがですか。ホクレアについて勉強しながら「ホクレアさん早く来てね。」とお願いしてみませんか?

 また、どうしても「総合」を潰して教科学習の時間が欲しいというのでしたら(そんな単純な施策では教科学力は向上しないと思うけど)、いっそ「土曜学習」に「総合」の役割を持たせていくというのはどうでしょう? 

 先日見たテレビ番組を思い出します。イタリアでは、第二次大戦後、生産効率の良い品種の家畜が爆発的に増える一方で、伝統的な品種が次々に滅びていったそうです。ところが近年、伝統的な品種から生産される畜産製品の付加価値が見直されて、若い人々がこの復興に取り組みはじめたのです。番組では、伝統的な素材と製法で作ったチーズの試作品を、地域の老人の所に持っていって、試食してもらいながら講評を受け、また伝統的な品種の育て方や畜産製品の作り方の聞き取り調査を行っていました。ワインをチビチビとやりながら若い者に知識を伝える爺さんの嬉しそうな顔ったらありません。

 きっと日本にも、地域から失われていきつつある伝統文化が沢山あります。いっそ土曜日は爺ちゃん婆ちゃんを学校に呼んで、聞き取り調査や制作実習に取り組んでみてはどうでしょうかね。きっとお年寄りの生き甲斐にもなるでしょう。お年寄りが元気に地域で生活していれば、老人医療費だって減るんじゃないですか? 伝統文化も受け継がれていきます。かのマウ・ピアイルグだって、ナイノアたちが居たからこそ長い間一線で活躍したと思うのです。

 こういう所こそ、ホクレアに学ぶべきなんじゃないのかなあ。