「里山コモンズ住宅」実現に向けての課題。その二つめです。
「だれのための里山コモンズ住宅なのか?」
私がNPO法人「南山の自然を守り育てる会」に今問いかけているのが、このテーマです。誰のための事業なのか? そのミッションは何であり、重視する価値は何なのか? この文言を読む限りでは、「南山の自然を最大限残す」「里山保全」のための手段として「里山コモンズ」という概念が論じられているように読めます。
そこまでは問題ありません。全然オッケーです。
問題はその先。第2回ワークショップでの検証の結果明らかになったように、実は彼らの間でも里山とかコモンズとか「里山コモンズ」という概念には諸説あり、会としての統一見解は出来ていません。当然、会として定めた定義が無いわけですから、その定義を南山の街作りや「里山コモンズ住宅」事業に落とし込んでいく作業も出来ません。
その一方で、工事は着々と進んでいます。本当に「里山コモンズ住宅」を事業化したいなら、会としての定義の策定は待ったなし。そこで敢えて私からこう問題提起をしました。
「里山コモンズというプロジェクト全体についてはともかく(ワークショップで検証したように住宅事業以外のトラスト地事業もあるので)、里山コモンズ住宅については、【自然保護のため】ではなく【そこに住む人間の快適な生活のため】の事業であると明確に定義しましょう。それが出来ないなら私は手を引きます。」
この件についての私の立場は明確です。まず私自身は「稲城市民のため」「南山に新たにやってくる住民のため」の活動以外には興味がありません。市民や住民が主役であり、自然や里山は脇役です。住民の快適な暮らしの場を創造するためなら、南山東部の木々を皆伐してしまっても全然構わないというのが私の立場。その上で、甲斐徹郎さんにレクチャーしていただいたような、緑をもっともっと積極的に利用することでより快適な生活空間を実現するというのなら、社会的意義を大いに感じるので、儲け度外視で手伝っても良いぞと考えています。
そんなの里山じゃないって? 何を勘違いしておられるのですか。里山は人間が人間の生活に役立てること「だけ」を考えて管理し利用してきた山林です。どのような犠牲を払ってでもそこにある老木を残すことが里山を守ることではないのです。
「その木が邪魔なら切って燃やしちゃえば良いじゃないの。その代わり、また次の世代の木が育てるようにしておこうぜ。」
これが里山の基本だと思います。
そしてもう一つ。里山コモンズ住宅は何千万円もする商品です。消費者は、自分にとって価値があるものにお金を払います。つまり、消費者の役に立たなければ、その木々、その自然には値段が付きません。値段が付かないものは売れません。消費者にとって価値が無いものを売る仕事は私には出来ません。消費者にとって価値があるとは、【そこに住む人間の快適な生活のため】に役に立つということです。
里山コモンズ住宅の里山は、本来、里山コモンズ住宅の購入者のためだけに存在する。里山コモンズ住宅の購入者以外のもの(人であれ動植物であれ)がそこからの利益を享受することはあっても、そのために里山コモンズ住宅の購入者の利益が犯されることは、里山コモンズ住宅の購入者の同意無くしてはあってはならない。
この大原則が貫けなければ、里山コモンズ住宅は絶対に実現出来ないと私は思っています。