都立里山公園を作ろう

 昨日はまた地元自治体の市民会議に出てきました。

 私の所属する分科会のテーマは「公園」。ここで私は以前から暖めていたプランを提案し、「実現出来れば最高だ」「夢がある」「是非、提言に盛り込みたい」との熱い反応をいただきました。それは何か?

 里山公園を作ることです。市内に残された広大な緑地を一括で守るには、それ以外に有効な戦略が見あたらないということもあります。

 以下、仮称・都立いなぎ里山公園の私案です。

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南山西部地区の公園化案

1:南山西部地区の緑地公園化の意義

・ 第4次長期総合計画市民会議の環境問題関連分科会において、この地区は緑地として必ず存続させねばならないとの意見の一致を見た。

2:都立いなぎ里山公園(仮称)の持つ可能性
2-1:都心からのアクセスの有利さ

仮にこの地区を緑地公園化した場合、以下に示すように多摩丘陵・武蔵野台地にある既存の大規模緑地と比較して都心からの電車によるアクセスの容易さという点では極めて有利である。南山西部地区は稲城駅を下りて500メートルほどで緑地にアクセス可能となる。なお、都心から直通の路線がある上に駅からも近いのは昭和記念公園、多摩中央公園、生田緑地の三つである 。

最寄り駅から遠いグループ

・ 神代植物園(調布駅かつつじヶ丘駅からバス)
・ 小金井公園(東小金井駅から直線で1キロ強)
・ 都立桜ヶ丘公園、長池公園、小山田緑地公園、野津田公園(近所に駅が無い)
・ 秋が瀬運動公園(西浦和駅から1キロ以上)

都心からの直通路線が無いグループ

・ 府中市郷土の森公園(京王線分倍河原で南武線に乗り換えて府中本町、更に歩く)
・ 野川公園(中央線から西武多摩川線乗り換え)
・ 八国山緑地、狭山自然公園、荒幡富士自然の森(西武線の支線沿いで乗り換えがある)

2-2:面積における優位性

南山西部地区を緑地公園化した場合、面積的にも小山田緑地公園や小金井公園、神代植物園を超えるものが出来る。

2-3:独特の地形

南山西部地区は多摩丘陵と、そこに形成された谷戸という複雑な地形を含んでいる。既存の大規模緑地のうち、同種の地形を持っているのは桜ヶ丘公園、長池公園、小山田緑地公園であるが、いずれも鉄道駅から極めつけに遠いので、近隣住民にしか利用されていない。都心からのアクセスにおいて最も競合する昭和記念公園、多摩中央公園、生田緑地のうち昭和記念公園と多摩中央公園は平坦な地形であり、コンテンツの面で差別化が可能である。同じく起伏に富んだ地形を持つ生田緑地は、日本民家園という方向性が非常に明確なコンテンツを持っているので、競合しないような配慮が求められる。

2-4:稲城駅前の活性化

都立いなぎ里山公園(仮称)のメインエントランスを公園通りに面して設けた場合、稲城駅から南に向かう大きな人の流れが生まれる為、駅前の商業地としての価値も上がる。

3:何を緑地公園の主要なコンテンツとするか
3-1:緑地公園の特徴

都立いなぎ里山公園(仮称)のセールスポイントは「新宿から電車一路線、25分で来られて、駅からも近い大規模緑地であること」「多摩丘陵と谷戸地形を楽しめること」の2点である。

一方で公園内に大きな駐車場を整備することは不可能であるから、基本的には井の頭公園や砧公園のように「電車で行く場所」とならざるを得ない 。また地形的にも起伏に富む、逆に言えば平坦な場所が少ないので、小金井公園のように「家族みんなで車で乗り付けてバーベキューをする」ような場所にはしづらい(する必要も無い)。また隣駅によみうりランドがあるので、遊具を用いたレジャーの場とするのも無意味である。

3-2:客層

上記の条件を考慮すると、緑地公園の主たる客層となるのは「区部在住であり」「マイカーを持たず」「自然の中に入る経験を求める」人々と想定出来る。

3-3:基本コンセプトの取捨選択

ここまでの議論においても、都立いなぎ里山公園が目指すべきでないコンセプトは幾つか指摘した。すなわち「大きな駐車場と広い芝生とバーベキュー(小金井公園、昭和記念公園などと競合)」「古民家展示(生田緑地、府中市郷土の森と競合)」「大型遊具(よみうりランドと競合)」である。

一方、既存の緑地において既に採用されていても、市場性という部分で都立いなぎ里山公園に優位性が生まれうるコンテンツが存在する。それは「里山」「谷戸」というコンセプトである。

3-4:里山コンセプトの課題

このコンセプトは既に長池公園、小山田緑地、八国山緑地で採用されている。しかしこれらの既存緑地は公共交通によるアクセスが悪い、あるいは非常に悪い。また、小山田緑地と八国山緑地は単に里山的な緑地を造って開放しているというだけであり、ユーザーフレンドリーではない。

二番目に指摘した問題点について詳しく説明すると、里山とは里山についての知識を持たない人が訪れて散策しても、さして面白い場所ではないということがまず指摘出来る。里山 とは、例えばオホーツクの流氷や華厳の滝のような説明を要さない大自然ではなく、人里のすぐ傍らにあるコンパクトな自然なのである。また、その最大の特徴は継続的な人為的撹乱による独特かつ豊かな生態系にある。とすれば、里山を観光資源とする場合に必要となるのは「里山の面白さを解りやすく来訪者に伝えることが出来るガイド」と、「里山の環境を維持する管理者」の二つである。

この視点から前出の三つの緑地を見た場合、長池公園にはビジターセンターもあるし地域のNPOが維持管理に関わっているので、ガイディング機能、維持管理機能ともひとまずは存在していると言える。小山田緑地は維持管理についてはそれなりのレベルにあるが、ガイディング機能は欠落している。八国山緑地はガイディング機能が存在していない上、森林のメンテナンスも不十分で藪化している場所も少なくない。

次に報告者が指摘したいのは、来訪者の消費欲を気持ちよく満たす場の必要性である。都立いなぎ里山公園を訪問するということは観光行動の一つであり、観光社会学では観光とは非日常の経験、一種の祭礼であると定義される。さて、観光を祭礼と考えた時に忘れてはならないのは、祭礼の場とは同時に蕩尽の場でもあるということである。人は日常において貯めた富を非日常の場で蕩尽することで、リフレッシュする生き物でもある。とするならば、緑地公園を訪れてガイドの話を聞きながら良く手入れされた里山を歩いて帰るだけでは、都立いなぎ里山公園を訪れた客の欲求は十全には満たされないことになる。そこで注目したいのが、消費地としての機能である(後述)

3-5:「谷戸」コンセプトの課題

谷戸地形は多様な生物が棲息しうるものであり 、また区部は当然のこととして、多摩川対岸の武蔵野台地においても狭山丘陵周辺以外には既に残存していないという点で、南山西部地区のセールスポイントとなる。しかしながら、谷戸の生態系が理想的な状態を保つ為には以下のような条件を維持する必要がある 。蛇足ながら上谷戸川では以下の条件の全てが満たされていない。

・ 流域(谷戸地形内)の雑木林が適切に管理されていること
・ コンクリート護岸や段差を作らないこと
・ 水田あるいはそれに準ずる遊水池を設けること
・ 谷戸の川はなるべく蛇行させ、瀬と淵を造ること

3-6:既存の「里山」的緑地の課題を克服した里山公園像とは

ここでは以上の議論を踏まえた上で、都立いなぎ里山公園を「これまでに無い里山公園」として構想してみたい。「予備知識の無い訪問者が里山を楽しんで、思い出とともに家に帰れる公園であること」が基本方針である。

3-6-1:名称

大前提として「ここは里山を楽しむ場所だ」ということがはっきりと伝わらねばならない。同時に稲城市のアイデンティティの核、稲城市民の誇りとなるべき施設でなければならない。「いなぎ里山公園」のような名称が適切であろう。

3-6-2:アクセシビリティ

たとえ里山・谷戸の生態系が理想的な状態で維持されていたとしても、「見るだけ」の公園では何も面白くない 。里山や谷戸の自然は、その中に入り込んで遊べることが重要である。よって、本施設では立ち入り禁止箇所を可能な限り減らし 、訪問者は原則としてどこにでも入り込んで自然を楽しめることが望ましい。

3-6-3ガイディング機能

里山とは何か、里山の楽しさとは何かを熟知したガイドを育成し、土日祝日には有料のガイドツアーを催行する。コースは2時間で一人1000円から2000円とする。ガイディングやツアーの内容については常に見直し、より魅力的な商品の開発を続けなければならない。

3-6-4:消費地機能

現代日本においては消費もまた娯楽の一部であると積極的に認め、本施設では「気持ちよくお金を使える場所」も用意する。一つは飲食施設で、これは基本的に園内や市内で採れた食材を用いた料理を提供するものとする。もう一つはミュージアムショップで、ここでは「地場産の食材」「園内または市内で製造された独自開発商品」「姉妹都市で製造された商品」を中心に物販を行う。ショップのマネージャーがバイヤーも兼ねることとなるが、バイヤーは現代人の嗜好に合った商品開発を積極的に行うことが求められる。