自然を守れという無責任

 マスメディアに盛んに取り上げられたせいで、稲城市の南山東部地区区画整理事業を批判する意見が色々と開陳されるようになりました。

 それ自体は別に良いのです。言論の自由というものがありますから。しかし、これまでの議論の経緯であるとか、事業の性質や規模、取り得る選択肢の範囲などを丁寧に検討しないまま、ネット上の動画や断片的な情報を根拠に事業の再考を求める意見があまりにも多いのではないかと感じます。

 ですが、正直な話、そのレベルの議論ならば今更する必要は無いのではないかというのが私の意見です。主な論点への反論を示しておきます。

・新しく来住した市民の意見も聞くべきではないか

→その論法がまかり通ってしまうと、事業完了予定の平成29年度まで毎年のように「俺は反対だ」という意見を聞く機会を設ける必要が出てきます。きりがありません。石川市長が指摘しているように、事業の是非を論じる時期は終わったというのが私の考えです。

・一旦、工事を中断してみては?

→その費用をあなたがご負担いただけるのなら、市ではなく組合に工事中断を直接ご提案ください。南山東部地区区画整理事業は公共事業ではありません。個人と法人が集まってやっているビジネスです。

・宅地化以外の利用法をもう一度、市民で考えようじゃないか

→宅地化よりも高い収益を見込める利用法が他に思いつくのであれば、どんどん組合に提案してみてください。ただし、宅地化以外の選択肢を議論することと、宅地造成工事の停止を無理矢理セットにするのは、工期や金利負担を考えると難しいと思います。
 なお、3月4日に行われた市議会において共産党の岡田まなぶ氏が行った代表質問に対する石川市長の答弁によると、これまで組合側に宅地化以外の利用法について寄せられた意見の中で、具体的なものは一つも無かったとのこと。
 ちなみに宅地としての価格は平米あたり10万円、区画整理事業区域全部で870億円です。稲城市の年間の税収は140億円です。

・市街化調整区域にすれば税金も安くなるでしょ?

→これまで市街化区域としての都市計画税や固定資産税を払ってきた地権者さんたちが納得しない、というのが組合の人の意見でした。だいたい南山東部地区で年度あたり1億円程度を納税しているそうですから。既に宅地化に向けた諸条件を全てクリアして事業が始まっているこの段階で市街化調整区域への逆線引きに応じる地権者は殆ど居ないんじゃないかと思います(上記答弁によれば、そういった希望は全く市には来ていないそうです)。

・コモンズ案はどうなっているんだ? 本当に実現するのか?

→私が組合の人に尋ねたところ、異口同音に「100%実現するでしょう」とおっしゃっていましたよ。具体的なプランはこれから煮詰めていく段階だそうです。

・コモンズ付き住宅地の位置さえわからないじゃないか!

→組合が配布している資料くらい読んでください。2月16日に新聞折り込みで市内全域に配布された広報紙の3ページにちゃんと奥畑谷戸公園の西側をコモンズ付き住宅地にすると明記してあります。

・せめて遊歩道をきちんと整備して欲しい

→組合が配布している資料くらい読んでください。奥畑谷戸公園以外にも尾根筋の現在の道は遊歩道として残りますし、崖地を整備した斜面緑地にも遊歩道は入る計画です。

・一度決めたら見直しをしないなんて、典型的な駄目政治家だな石川良一君は

→市や都が施行する公共事業だったら見直しもあったかもしれませんね。現に百村の区画整理事業(都施行予定)は最近、中止になりました。でも南山東部地区区画整理事業は市ではなく民間の事業ですから、法律に則って進めている限りにおいて、石川市長にそれを止める権限はありません。議会にもです。

・補助金20億円の支出を止めれば良いじゃないか

→組合は法の規定の倍以上で確保している緑地面積を減らして埋め合わせるだけです。それに、南山東部地区の地権者がこれまでに市に支払った固定資産税・都市計画税・相続税は20億どころじゃききませんよ。
 ちなみに2009年3月の稲城市議会定例会で共産党などが提案した、2009年度分の補助金5000万円支出の凍結動議は、14対7で否決されました。

・この大不況で宅地は売れないでしょ

→事業完了は10年後ですし、組合や地権者が赤字を出しても稲城市がそれを補填することは無いので安心してください。付け加えるならば、区画整理だけで400億円、土地と建物の売り買いまで含めると1000億円前後のお金が市内を動くわけですから、経済効果という点ではかなり期待出来るんじゃないかと思いますよ。別の言い方をするならば、事業は不況対策としても計算出来るってことです。

・地権者が損をするリスクがあるぞ

→ビジネスってそういうものじゃないですか? 100%もうかるというフレーズは基本的に詐欺師しか使わない(使えない)と思います。それに、相続が発生した時の相続税負担のリスクが既にヤバい状況だから事業が始まってしまったわけですよ。

・里山の木を切ったら二酸化炭素を吸収しなくなるぞ

→日本列島全体で見たら森林面積は増え続けていますよ(地方の過疎化で・・・)。それに南山の森林の大半は間伐が全くされておらず、放置されています。森林に二酸化炭素を吸収させるならきちんと定期的な間伐をしなければ、木は密集状態になってそれ以上成長出来ず、従って二酸化炭素もまともに吸収してくれません。

・自然は一度壊したらもう戻らないぞ

→江戸時代に描かれた「調布玉川惣画図」を見る限り、当時の南山は禿げ山ですね。『稲城市史』にも戦後の禿げ山状態(尾根筋にアカマツが生えているだけ)の南山の写真が掲載されています。現在の南山東部地区は1960年代の燃料革命以降、薪炭林として利用されなくなったために木が育った状態です。

・あんなところに幹線道路が出来たら周辺の環境が悪くなる

→普通、幹線道路と呼ばれるのは主要地方道以上です。稲城市内では鶴川街道、府中街道、尾根幹線道路だけが幹線道路扱いで、南山公園通りは片側1車線の市道に過ぎません。この道を幹線道路と言い張っているのは共産党くらいです。

・八王子じゃあ「市民公募債」に87億もの希望が集まったというじゃないか。稲城でもそれをやればどうだ?
→87億というのは、市民債購入希望者の購入希望額の合計でしかありません。例えばあなたが年収500万円だとして、「年利3%の金利、5年返済で5000万円貸してやるから、それで里山を買ってみないか?」と提案されたとき、5000万円借りますか? 八王子だって借りたのは10億円だけですよ。ちなみに八王子の財政規模は稲城の6倍くらいあります。

・崖地の工事は危険だ。止めるべきだ。
→本当に危険なら工法には更なる工夫が必要でしょうし、都と市には安全な工事の徹底を指導して、無事故で工事を終えていただくことが大前提ですね。ですけれども、難しい工事であるということと事業を中止していただくことは直接結びつけられないのではないでしょうか。逆にうかがいたいのですが、仮に崖地のような難しい工区がそもそも南山東部地区に存在しなかったとしたら、宅地化に反対しないとなるでしょうか? ならないでしょう? 工事の安全性の問題と宅地化事業の是非の問題を混同してはいけません。

・お前は南山が宅地になっても良いのか?
→そうなって嬉しいというわけではありませんが、現在の反対運動には「地権者や市と市民の間の対立・相互不信を無用に煽っている」「補助金支出の凍結はむしろ緑地面積を減らす方向に作用しかねない」「現実的な対案を示すことが出来ておらず、左翼系市議の選挙運動にしかなっていない感がある」という理由で共感出来ません。敢えて言うならば「決して事業に賛成ではないが、現段階での反対は建設的ではないので、反対はもうしない。」というところでしょうか。
→現実的に見て宅地化は不可避ですし、ならば市民が積極的に協力して「森の中に街を創る」というコンセプトを提案し、実現させるべきと考えています。