第3回「南山・何でも検証ワークショップ」で、「南山の自然を守り育てる会」の案に極めて厳しい評価が突き付けられたことに驚かれた方もいらっしゃることでしょう。
しかし、事実は事実、評価尺度は評価尺度です。彼らにだけ手心を加える理由はワークショップには存在しません。むしろ現事業計画に含まれているぶん、厳しく見ていかなければいけないというのが私の考えです。ワークショップは市民による公開かつ中立の場での、南山問題の事実検証作業ですからね。
さて、とはいうものの、このまま「里山コモンズ住宅」が頓挫するとなると(その可能性は9割近くあると私は見ています)、稲城市政は更に混乱します。南山の街のグレードも下がり、ひいては稲城市の魅力が下がります。これから人口は減少していきますから、魅力の乏しい街から人は出て行きます。人が出て行けば街は寂れ、スラム化し、納税者によって支えられている公共インフラが維持出来なくなります。
ですから私は敢えて「南山の自然を守り育てる会のプランは実は駄目駄目でした。おしまい。」と書かずに、どうすればリカバリー出来るかを、かなりの紙幅を使って最後に分析しておいたのです。
彼らには「里山コモンズ」という商標があり、組合との協議書があり、市のバックアップがあり、今の所は専門家のアドバイスもタダでもらえている。手札の内容としては悪くありません。しかし、これだけの手札で勝負を続ければ、十中八九は負けるでしょう。
何故ならば、彼らは不動産商品を開発して売ろうというのに、グループの中に不動産取引や建築の専門家が一人もいないからです。これは自転車の整備が出来ない人が自分だけで自転車屋を開業するのと同じくらいナンセンスです。いや、専門家のアドバイスを受けながらやるから大丈夫だって? 馬鹿言うもんじゃありません。あなた自転車屋に行ったら素人の自転車屋ワナビーくんが出てきて、隣に立っている自転車安全整備士のおじさんにアドバイスを受けながら、つたない手つきであなたの自転車の整備を始めたらどうします? そんな自転車怖くて乗れないでしょ? しかもプロが30分でビシッとやる作業を素人は4時間かけてあやしい手つきでやって、仕上がりも悪い。
そんなのタダでもお断り。これが常識的な判断です。いくら専門家のアドバイスを受けようが、素人は素人。専門家の代わりは出来ませぬ。それが許されるのはただ一つ、自分で自分の自転車をいじる時だけ。
ならばどうするべきなのか? 自分たちに足りないスキルを持っている人物と手を組めば良い。
ただし。
どこかからマヌケな建築家を見つけてきて、会員にして、タダ働きさせようなんて考えたらいけません。それは天地の理に反する思考です。プロはその専門技能を提供して対価をいただくからプロなのです。何億円、あるいは十数億円というプロジェクトを仕切る専門家がボランティア? それはまずプロに対して失礼であり、また顧客の信頼も得られません。だってボランティアは気が変われば居なくなってしまいますから。正当な対価を支払って技能を買う。これでなければ駄目なんです。
ということは? 答えは出ています。市民のボランティア集団である「南山の自然の自然を守り育てる会」がプロの仕事である住宅プロデュースをやる、というのは、紙と木で電池を作る、というのと同じくらい荒唐無稽な発想です。プロと手を組むしかありません。プロに対して「このようにして利益を出しますから、この段階でいくら、この段階でいくらのお支払いが出来ます。ですから先行投資として、あなたの技術を提供してください」という話を持ち込み、きちんとした契約書を交わす。これしかありません。
組合の宇野さんがこちらで書いておられるのも、要はそういうことだと思います。
今こそ決断の時です。世の中にはプロにしか引き受けられない仕事があり、そしてプロはただ働きはしないからプロなのです。