Mission, Concept, Value

 年明けからまとまった勉強の時間が取れているので、本ばかり読んでいます。3日で2冊とかそれくらいのペースでしょうか。じっくり読むものもあれば、流し読みのものもあります。日本語の本もあれば英語の本もあります。なんか久しぶりに充実したインプットの日々です。といっても次のアクションのプランもかなり具体的になっていて、来月から色々な人と会って話をする予定なのですが。

 ここしばらく、集中的に読んでいるのは社会的起業(Social Entrepreneur)関係の本です。社会的起業というのは、営利だけを目的とはせず、何らかの社会的な問題意識を持ち、その問題意識に従った事業を展開することです。例えば横浜のシンポジウムに出席してくださった藤崎達也さんのやっておられる事業などが典型ですね。知床地域にエコロジカル・ツーリズムと先住民ツーリズムを定着させるという、社会的目的を持った事業。

 ポリネシア航海協会もそうです。ポリネシア航海協会に専従職員は通常居ませんが、多額の資金を集めて伝統的航海術の保存・振興や環境教育、国際理解などの事業を展開していますね。チャド・バイバイヤン船長の参加しているアハ・プナナ・レオやチャド・パイション船長の率いるナ・カライ・ワア・モク・オ・ハワイイ、アトウッド・マカナニさんのプロテクト・カホオラウェ・オハナもそう。荒木さんの海人丸もそうです。

 そういった事業のケーススタディや経営論の本を色々と読んでいるわけです。その中でなるほどと感じた分析があります。

 社会的起業はミッションとコンセプトと価値観を共有するステークホルダーの集団が存在しなければ失敗するという話。

 ミッションというのは「その事業を行うことで何を目指すのか」ということ。
 コンセプトというのは「いかにしてその事業を構築するのか」ということ。
 価値観というのは「何故、その事業を行うのか」ということ。
 ステークホルダーというのは、その事業に対して利害関係を持つ人たちのこと。

 「オセアニア各地の航海カヌーに大漁旗を贈る会」の場合、ミッションは「オセアニア各地の航海カヌー・プロジェクトに大漁旗を贈る」。コンセプトは「郵貯銀行の口座に寸志を集めて、デザインはネット上でみんなで決めて、実務は言い出しっぺがやる」、価値観は「だって大漁旗をプレゼントしたら喜ばれるし、気軽な草の根国際交流じゃないか」となります。ステークホルダーは、言い出しっぺと出資者と日本国内の航海カヌー愛好家と各地の航海カヌー・プロジェクト。

 今のところ、このプロジェクトは、ミッションやコンセプトや価値観に一定の賛同をいただいているので、成立しているわけですね。
 
 しかし、これはまあお小遣いで楽しめる程度の極小規模のプロジェクトですから、ミッションやコンセプトや価値観に深刻な対立が発生しないだけなのです。

 プロジェクトが大きくなればなるほど、これらの一致は難しくなるでしょう。ホクレアの日本航海を考えてみても、ステークホルダーの間でミッションや価値観は概ね共有されつつも、コンセプトの共有は最後まで難題でした。少なくとも私はそう認識しています。それくらい社会的起業というのは難しい。営利目的だけの企業であれば、とにかくお金が儲かれば人は集まってくるでしょう。しかし社会的起業の場合、無償の労働力や資源提供を当てにせざるを得ない場合も多いです。重要なのは、ミッションや価値観を共有出来る人々をいかに一つのコンセプトに統合するかということです。

 そこで問われるのはリーダーシップの品質だと思います。ハワイの連中があれだけリーダーシップの重要性をしつこく語っていた意味も、こうやって整理するとわかりやすいですね。ミッションや価値観は比較的簡単に共有できるのです。ですが、どういった形でそれを実現するかという部分では、色々な選択肢が考えられます。そこでどのようにステークホルダー間のコンセプト構想の相違を調整して、最善の結果に繋げていくのか。それはリーダーの手腕次第です。リーダーシップの品質が低ければ、プロジェクトは頓挫してしまいますし、仮に何とか恰好を付けたとしても、「あんなことになるなら、止めておけば良かった」と言われてしまうような悪しき前例になってしまう可能性もある。

 成功した社会的起業には例外なく、優れたリーダーが存在していたのではないか。私はそう考えています。ポリネシア航海協会の故マイロン・トンプソン。ルーム・トゥ・リードのジョン・ウッド。ティーチ・フォー・アメリカのウェンディ・コップ&リチャード・バース夫婦。私はどちらかと言うとはぐれ狼系の人間なので、優れたリーダーにはなれないでしょうが。