卒論指導の快楽

卒業論文というのは大学教育の中でも特に重みがあるものの一つだと思います。場合によっては書き手の人生を変えてしまうほどの力があります。その学生が心の底からやりたいと思っているテーマを対話を通して発見させ、それを支持し、研究としての適切な方向性を与え、そして背中を蹴飛ばしてやる。。卒論の出来がどうこうというレベルを超えます。生き方そのものが一気に前向きになり、表情が生命力で溢れます。昨年度に続き今年度も、そんな学生を指導することが出来ています。楽しいです。学生の研究が進むにつれて、どんどん面白いアイデアや情報が出て来ます。どうやってまとめようか嬉しい悲鳴が上がります。

とはいえ、優れた素質を持つ学生がいればそれだけでこうした指導が実現出来るとは思いません。何より大切なのは信頼関係です。その学生の力を信じてやらなければいけないし、指導しきるだけの実力を持っていなければ無論いけないし、それを実感させなければいけない。その上で「お前のテーマは新しいし面白いし価値がある」「必ずゴールまで連れて行ってやるから千切れずについて来い」常にそうやって声をかけて励まし、時に煽りながら、一つずつ正しい手順で峠を越えさせていくわけです。ロードレースで言うアシスト選手のようなものです。奥が深い仕事です。やればやるほど面白い。

日本の大学は、特に人文系は伝統的に論文指導を殆どしませんが、こんな楽しい仕事を適当にやっつけてしまうなんて、大学教員の喜びの2割くらいをドブに捨てていると思います。