カトリックの信徒が死ぬ時に何をしてもらうのか

 今現在も2巻を手にしていない私ですが、2巻で出てくるキリスト教の習俗で、少しわかりにくいものがあるという電話が先ほどかかって来ました。

 要するにカトリックの信徒が死ぬ時にするあれ。あれは何で、何の為にするのかって話ですね。私の所を通過した時点では「終油の秘跡」という訳語になっていたと思いますが、もしかしたらその後「告解」に変更されているのかもしれません。

 ともかく、この辺りについて、簡単なご説明を。

 ちなみに簡単じゃないご説明はこうなりますが、

「終油の秘跡

 聖職者が聖油をキリスト教徒の肉体に塗布するという手順で行われる秘跡のこと。もともとは病人に対し、神の恵みを与えるという目的で行われていたが、中世から近世にかけては臨終にあるキリスト教徒に行うものという性格が強くなった。「終油の秘跡」という訳語はここから来ているが、1962年から1965年にかけて開催された第二バチカン公会議においてこの秘跡の位置づけは見直され、病人に対し行うという本来の性格に回帰した。よって現在では「病者の塗油」と呼ばれている。

 基本的な手順は以下の通りである。まず聖職者が秘跡を受けるものの額に聖油を塗り、「神がその愛と慈悲において、聖霊の恩寵をもってあなたを救いますように」と唱える。次に聖職者は秘跡を受けるものの両手に聖油を塗り、「神があなたの罪を赦し、またあなたを復活させますように」と唱える。これで秘跡を受けたものは神の恵みと罪の赦しを得るとされる。

 聖油(基本的にはオリーブ油を用いるが、これが手に入らない場合は他の植物性油を使用する)を用いるのは、危篤状態の人間に塗布するだけで儀式を行うことが出来るからである。すなわち意識がはっきりしている人間の場合、告解(聖職者に自分の犯した罪を告白し、赦しを受けるという手順の秘跡)などの秘跡によっても、「死の直前に罪の赦しを得る」という本来の目的は果たされるのである。」

 まあ何せ人死にが一杯出るお話ですからね。そこいら中でこういう需要はある。1巻でも「霊魂の扉」での戦闘でアラトリステがやっつけた男が実はかつての戦友で、イニゴくんに言って近所の教会から告解の為に司祭を呼ばせるというシーンがありましたな。

 簡単に言えばこういうことです。カトリックでは、人間は死後に天国か煉獄か地獄に行くことになっています。天国については説明不要でしょう。煉獄というのは、罪の償いを終えていない人が行くところです。ここで痛い目に遭って罪を償ってから天国に行くわけですね。ところが最後に秘跡を受けて罪を赦されてから死ぬまでにうっかり罪を犯すと、罪の赦しを受けずに死んでしまうことになるので、煉獄にも行けずに地獄行き直行便ご案内となる。

 そこで、臨終ギリギリのタイミングで罪の赦しを得て行こうという、考えようによっては少々セコい作戦が展開されるのですね。その赦しの為の秘跡は告解でもなんでも良いのですが、あまり引っ張り過ぎると喋ることも出来なくなる。そこで聖油を塗ってもらうだけで赦しが得られる「病者の塗油」がブームとなり、臨終のスタンダードとなった、ということです。