NovelJam2019に参加することになった。
編集者枠である。著者枠で応募しておいたのだが、運営の中の人から、編集者が足りないので出来れば編集者に回って欲しいと直々に頼まれた。
個人的には、変なイベントを参与観察してみたい、そこで本当に尖っていて気が合う人に一人でも出会えれば文句なし、というのがエントリー動機なので、編集者でも良いですよと即答した。
さて、現代日本の文芸は、量でいえばその99%がソーシャル&クラウドで展開している。Novel Jamもその系譜の中にあるから、参加者が確定した時点でSNS上では活発な事前のスカウティング活動が始まっている。これは非常に面白いし、積極的に自己アピールする日本人は比率としては些少なので、そういう人々に出会えるというだけでも元は取ったのではないかという気がしている。
今の所、Novel Jam2019’で参加表明している人々の大半は著者枠で、特にnoteにCVをまとめるのが流行っているようだ。
だが、自分はnoteは嫌いなので、ブログにNovel Jam向けのCVをまとめておくことにする。
【何をしている人か】
- フリーランスのコンサルタントで、商品やサービス開発、人材育成などのサポートをしている。
- 障害者施設と組んで、障害者が稼ぐための商品やサービス開発もやっている。
- 博士号を持っており、論文や学術書はそれなりに書いている。訳書もけっこうある。
- 専門は芸術社会学と障害社会学と地域社会学。
- 大学で教えていたこともあり、卒論指導は何十人か担当した。正式な担当学生ではないのにわざわざ私のところに指導を頼みに来た者が20人くらいいたし、今でも多くの指導学生(だった人たち)と繋がりがあるので、論文指導をする先生としてはきっと良い先生だったのだろうと思う。
- 小説はいつか書いてみようと思っていたが、人生の残り時間を計算してみて、そろそろ着手しておかないとと思ったので、2019年の3月から小説を書くことに挑戦し、6月に15万字くらいの長編を書き上げて日本ファンタジーノベル大賞に送った。結果は知らないが、魔法も魔物も超自然現象も出てこないのでジャンル違いで落とされるのではないかと思っている。現在は同じ世界設定を使った作品をエブリスタに書いている。
【得意なこと】
- 短期決戦のプロジェクトマネジメントは非常に得意である。
- フラットなチームのマネジメントも得意である。
- 文章校正も非常に得意である。特に事実誤認や誤用のチェックは(論文指導で鍛えただけに)、多分、出版社のプロ編集者よりも遥かに厳しくやれる。
- 英語は全く苦にならない。日本語と同じ速度で読める。だから英語で作品を書きたい人でも対応出来る。
- 学術資料の検索と内容チェックも本職だから早い。
- 文学批評の理論や現代アートを含む美学の諸理論はたぶん大体知っているから(というか教えていたから)、そういうものを使った作品を作りたいならば私を使うのが圧倒的に有利。
【好きなジャンル】
- 研究書
- 考証がしっかりしているエンタメ小説
【編集者としてやってみたいこと】
- 学生の卒論は基本的には学生が心から書きたいテーマを選べ、と勧めていたので、著者が書きたいというテーマに沿ってのサポートになるはず。
- 好きなジャンルで示したものは、おそらく著者枠で参加する人々とは全くカブらないと思うし、そういうものを書いて欲しいわけでもない。考証がガチガチに固めてあるエンタメを書くならば自分が一番優れているのだから、それを求めるなら自分で書く。
- 最初にプロジェクトのスコープを設定してもらう。賞を狙うのか、クリエイターとしての能力を伸ばすためのストレッチに注力するのか、とにかく名前と顔を売りたいのかを決めてもらって、それに最適化したプロジェクトマネジメントを行う。賞金が出るわけでもないマイナーなアウォードなのだから、優勝することにあまり意味は無いはずである。書き手とデザイナーのキャリアアップのために何が必要なのか、そこから全て逆算して考えたい。
- プロジェクトマネジメントの手法の基本としてはPMBOKを用いる。ただし2日間で完結する少人数チームでのプロジェクトであることに鑑みて、コスト・マネジメントと調達マネジメントとステークホルダー・マネジメントは割愛する。スコープ、スケジュール、品質、資源、コミュニケーション、リスクの各領域を必要な規模で実施する。
【参加表明しておられる著者枠の方々の作品を拝読しての感想】
それなりの数、作品を拝読してみて思ったこと。
文章表現の細部は(主に比喩表現において)それぞれの拘りの技術があり、それらは充分に訓練されている。だから読み始めると、おお、面白い表現テクニックを使う人だなと思う。だが、それで興味を持って読み進められるのは1500字程度が限界である。だんだん、文章のコスメティックスがくどく感じられるようになる。
また、そのようにコスメティックスを駆使して書かれている内容は、ありきたりな性愛や嫉妬というコンセプト、あるいは非現実的に過ぎるSF設定の辿るスラップスティックな時間の流れであり、結局この書き手の差別化ポイントは比喩表現の技法の個性にしかない、という結論に達してしまう。あくまでも個人的な結論だが。
もちろん、性愛や平凡な感情のたどる経過を文芸作品として読みたいという市場ニーズは巨大だから、そこに独自の比喩表現技術をもって挑戦したいというのは何の問題も無い。それで収入が得られればなおさら良い。
ただ、個人的には、読んでいて面白いとは思えなかった。
狂気が感じられないからだ。
こいつはおかしい。そこまでやる奴はいない。そういうポイントが無い。
ミキサーのフェーダーの一箇所だけを、インジケータが天井に張り付いて真っ赤に炎上するまでブチ上げているような、そんなポイントのことだ。少なくとも私はまだそれをNovel Jamの著者枠の人々の中に発見していない。言っておくが直截的にセクシャルな表現を乱発するのは狂気ではない。そんなものはコロコロコミックと一緒に卒業して然るべきだ。落ち着いて周囲を見回して欲しい。目立とうとしてエログロのフェーダーを無意味に上げている人ばかりではないか。悪いことは言わないから、止めた方が良い。それはほとんどすべての事例において、一歩引いて見ればただの雑なノイズにしか見えないものだ。
要するに皆さん、周囲を気にしすぎている。一見尖っているように見えて、4年になるとあっさり髪を黒染めしてリクスーを着て淡々と就活に向かっていった何人かの学生を思い出す。
私が卒論指導した中で特に印象深いのは、BL趣味を誰にも言えずにずっと生きてきた、地味な女子学生である。
卒論ゼミの第1回目のときに、「どうしてもこれを書かないと生きている意味が無い、と思えるテーマがあるならば、それを卒論にしなさい」と私が言うと、彼女は意を決したように、実は自分は今まで誰にも言えなかったがBLが大好きで、やはりどうしてもこれで卒論を書いてみたい。でもこれが卒論になるのかわからない、と語った。
「絶対にそのテーマで書くべきだよ。論文としてそれが成立しなければ、それは私の責任だ。大丈夫、必ず卒論として完成させてあげるから、BLで書きなさい」
彼女にとっては、あの卒論が、自分の殻を破るきっかけになった。卒論を書き上げた時の彼女の顔つきは、4月とは別人だった。
そういう瞬間を誰かが経験する手助けがNovel Jam2019’で出来れば、と思う。
【こんな人と組みたい】
- とにかく組みたい書き手を選べと言われたならば、書き手に関しては比喩表現の個性よりも知性の深さを重視したい。3000字から10000字の文章となると、斬新な表現の三つ四つで押し切れるようなポピュラー音楽の歌詞とは違い、奇抜な表現の力だけでは最後まで読ませられない。それよりも重層的にコンセプトを構築し、それを形にする方が良いし、そのような作品作りをするためには知性が最重要である。文章は下手で良い。バランスの取れた読みやすい文章へのチューニングならば、こちらでいくらでも爆速で出来る。それよりもコンセプトを理解し形に出来る知性が大事だ。要は賢い人、書くこと以外の勉強を沢山してきている人、である。
- スコープ設定にもよるが、勝ちたい人、書き手やデザイナーとしてキャリアアップしたい人であれば、顔出し出来る人が良い。モザイクやスタンプで隠したり横を向いたりしないで、正面から真っ直ぐカメラ目線で写った写真を全世界に、これが私だと公開する覚悟がある人だ。使い捨ての筆名ではなく、本名か、それに近いレベルで大切に使うつもりがある筆名であることも求めたい。ちなみに私は本名で出ている。
【著者近影】