ギャビン・メンジーズ『1421』評価

 『1421』の中身を確認しました。1421年から23年にかけて、明の艦隊が世界一周をしていたという本です(トラックバック先参照)。

 「読みました」と書かないのは、読了しなかったからです。あまりにも内容が杜撰で、文章も下手くそで、構成も粗雑でした。とても最後まで読むに耐えない。時間がもったいないと思いました。個人的にね。

 問題点は沢山ありすぎて書ききれないのですが、目立つ所をいくつか。

・これまでに何が明らかになっていて何が明らかになっていないのか、整理されていない。

 普通は、話を進める上で必要な個々のエピソードの信憑性について、「これは確実だろう」「これはちょっと眉唾」「これは話半分で」というような評価を示すものなのですが、この本はあまたある「歴史学の素人が書いた稗史」本と同じく、そのような基本的な手続きがまったく為されていません。これでは読み手は「この主張はどの程度の蓋然性があるのか」を感じながら読めませんし、どの部分が筆者の主張で、どの部分は定説なのか判断できません。

・依拠している文献が英語の概説書だけ。

 これだけ大きな話をやろうというのに、参考文献として挙げられているのが英語の概説書だけというのは、学部生の卒論としても評価は極めて低くなると思います。明の永楽帝の時代を扱っているのだから、中国や日本の論文が大量に引用されていなければいけないはずですし、南米や北米、オセアニアの話になれば、その地域の考古学の論文がこれでもかという位に言及されなければおかしいですね。

・典拠注がほとんど無い。

 また、典拠注(どの本の何ページに書いてある文章を引用しているのかを示す注)が打たれていない引用文もいっぱい出てきますが、これでは読み手は原典を確認できません。

・構成がお粗末

 茂在寅男氏の本を批判した時にも書きましたが、まずは従来の学説を整理して、その中のどこを批判していくのかを示すべきですし、その論点の検討に入ったら、きちんと最後までやり終えるべきです。ところが、この本は著者の想像した艦隊の航路をダラダラと紹介しながら、その都度自分に都合が良い材料だけを勝手な解釈を施して一つか二つ示すだけです。これでは、その材料が一般的にはどういった見方をされているのか、読み手にわかりません。

 とりあえずこんな所で止めておきましょう。

 この本の主張の妥当性については、私には判断出来ません。というのも、上で指摘したように、読み手がそういう判断を行えるようなサービスを、この本は一切していないからです。歴史書としての評価をしろと言われたら、100点満点で5点くらいです。救いがたい。志の高さという点では『ズニ族の謎』のほうが遙かに高いです。較べるのが失礼なくらい。

 何度も書きますが、歴史学としてのマナーを守らない(守れない)のであれば、小説を書いた方が面白いし、批判されないし、みんな幸せになれると思います。