「カピタン・アラトリステ」シリーズの翻訳の為に最近わんさか帆船の資料を集めています。16-17世紀のスペイン海軍の装備を調べるというのが主目的なのですが、航海術史とか艦船発達史のような本を見ていると、やはりいまだにヨーロッパ中心で船の歴史が語られているんだなあというのを如実に感じますね。これはもうどこの分野でもそうなんですけどね。「音楽史」と言ったら(特にある年齢より上のじいさまたちにとっては)「西洋古典音楽史」のことだし。船の歴史もエジプトから始まってギリシアやローマの軍船、ヴァイキング船、そこに突如としてアラビア人の「ラテン帆」が登場して(じゃあそれまでのアラビア船舶史はどうなってんだよ!)、キャラックやコグからガレオン・・・・という感じ。
太平洋諸地域の航海カヌーの話なんか全く出てこない。辛うじて中国のジャンクとか遣唐使船とか弁財船が添え物みたいに登場するくらいです。
まあ1970年代以前の文献はしょうがないと思いますけどね。航海カヌーとはいったいどんなものなのかとか、わかっていなかったんだから。
そんななかで、ちょっと面白い本がありました。
東喜三郎『世界帆船画集:波濤を越えて』成山堂書店、2002年
http://www.seizando.co.jp/gasyuu.html
著者の東さんという方はバンダイの社員から取締役まで務められた方で、きっとプラモデルの箱絵をお描きになっておられたんでしょうね。プラモデルの箱絵というのはきちんとした画力と考証が求められる分野ですから、このジャンルには実力のある人が多いんです。中西立太さんとかね。
この画集には、なんとポリネシアの航海カヌーも登場しています。デザインはトンガとかタヒチあたりの復元船がベースのようですね。マヌ(船体の前後のそそり立った部分)とかちょっとあり得ない巨大さですが、帆形もしっかりクラブクロウ・セイルだし、良いんじゃないでしょうか。お近くの図書館で見かけたら、是非手にとってみてください。
追記:「カピタン・アラトリステ」シリーズの時代背景を紹介するウェブログをつくりました。2巻『異教の血』(この邦題は私が考えました)は8/25発売らしいです。
http://alatriste.exblog.jp/