鶏さんがやってくれた!

 6月4日付でアメリカの学術雑誌に掲載された論文が話題になっています。

Storey, Alice A. et al. 2007. Radiocarbon and DNA evidence for a pre-columbian introduction of Polynesian chickens to Chile. Proceedings of the National Academy of Sciences Early Edition, June 4, 2007.

 論文のタイトルを日本語にすると「放射性炭素及びDNAにおける、ポリネシアの鶏のコロンブス以前のチリへの移入」とでもなりますかね。この論文は現在リンク切れ(別のURLに移している途中と思われます)なんですが、内容を紹介した記事が出ていますので、そちらからかいつまんでお話ししましょう。

 まず現在の家畜化されたニワトリさんの原種についてですが、これは東南アジアで8000年くらい前に野鶏(Red Jungle Fowl)から家畜化されたものが大元だろうと考えられています。そして後に太平洋諸島に広まっていったポリネシア人の祖先は、この鶏たちを連れて船出していったことも判っている。

 一方、フランシスコ・ピサロの記録によると、16世紀初頭に既にペルーには家畜化した鶏が居たとされている。

 それではその鶏さんはどこから来たのか?

 8000年前には既に氷河期は終わっているので、タイあたりから鶏を持った連中が必死に北上してベーリング海峡を渡っていったというのは、ちょっと難しい。まあやってやれないことは無いですけども・・・・。

 それより簡単なのは、ハワイやタヒチあたりまで来ていたポリネシアン・チキンを航海カヌーでアメリカ大陸まで運ぶルート。ですよね?

 そこでこの論文です。チリ南部のエル・アレナル1と呼ばれる遺跡から出た5羽分の鶏の骨のDNAを調べてみたら、トンガのメレ・ハヴェア遺跡(年代は2000年前から1550年前くらい)やアメリカ領サモアのファトゥ・マ・フティ遺跡から出た鶏の骨のDNAと同じだったと。トンガもサモアもポリネシアです念のため。

 そしてエル・アレナル1遺跡の年代は11世紀から16世紀なのですが、鶏の骨の放射性炭素を調べたら、この鶏が生きていたのは1304年から1424年の間くらいだったと。ついでにファトゥ・マ・フティ遺跡の年代はエル・アレナル1遺跡とだいたい同じだそうです。

How Did the Pacific Ocean Form?
The Pacific is the world's largest ocean, covering 28% of the Earth. Discover interesting facts about the Pacific Ocean,...

 つまりどういうことかと言うと、コロンブスがアメリカ大陸に到着する前には南米に鶏が居た(だからヨーロッパ由来の鶏ではない)、そしてその鶏の遺伝子配列はポリネシアの鶏と同じだった。だからポリネシア人は少なくとも1回は南米大陸に鶏を連れてやって来ていた。

 早速このニュースを持ってポリネシア航海協会会長にインタビューしに行った人がいました。会長のおことばは・・・

「凄いニュースです。」「私が子供の頃、ポリネシア三角海域という概念はありませんでした。私はそれを学校で習わなかったんです。ところが今、学校では『ポリネシア人はポリネシア三角海域より広い範囲に到達していたらしい』と教えています。ポリネシア人がオーストラリアの東海岸に到達していた証拠も見つかっているし、マダガスカルとの繋がりさえ考えられています。そして今度は南米です。古代ポリネシア人の活動はまさに地球規模だったのです。」
http://www.honoluluadvertiser.com/apps/pbcs.dll/article?AID=2007706050348