ラピタ文化への航海

 ポリネシアのダブル・カヌーを参考にした現代的なヨットデザインを追求していることで知られる(私も前から知ってましたよ)ジェームス・ワーラム氏が、今年、大きなプロジェクトを実行に移すようです。

 題して「The Lapita Voyage」

 きっかけはジェームス・ワーラム氏がジャレド・ダイアモンドの『文明崩壊』(私も去年、講義に使いました)を読んだこと。この本の前半ではポリネシアの話が2章に渡って出てくるのですが、2章に出てくるのがティコピアです。ソロモン諸島国にある域外ポリネシアの一つで、タウマコの近所にある島なんですが、ジェームス・ワーラム氏は1996年にティコピアを訪れたことがあり、その輸送インフラの貧しさを知っていたのだとか。事情はタウマコと同じです。滅多に回って来ない定期輸送船。かつて持っていた遠洋航海カヌーも全て退役し、カヌー建造技術も失われてしまったので、外部に出て行く手段が極めて限られている。

 そこでジェームスは閃いた。じゃあ俺がカタマランを造ってティコピアとアヌタ(ティコピアの近くにある域外ポリネシアの島)にプレゼントしてやればどうだ? そうです。ヴァカ・タウマコ・プロジェクトと同じですよ。再び自前の航海カヌーを手に入れれば、それを使って外部と行き来することが出来る。何せ風で動きますから、燃料要らないし。

 そんなわけで、この4月からフィリピンで2艘の航海カヌーを建造しているのだそうです。材は合板で、少なくとも25年は持つように造ると。デザインはちゃんと昔のティコピアのカヌーを博物館で実測して、それをモチーフにしたのだそうです。性能試験の為に建造された1艘目の「タマ・モアナ(海の子供)」はこんな感じ。船体の収蔵庫のデザインなど、ちょっとホクレアにも似てますね。

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 これが2艘目の建造風景。
http://www.lapita-voyage.org/en/boatbuilding.html

 11月にはフィリピンを出て、半年かけてティコピアに2艘の航海カヌーを届けるそうです。建造スタッフやクルーにはティコピア人やアヌタ人ももちろん参加(ソロモン諸島国政府の出国許可が出れば)。航法も近代的な機材は使わずに、ウェイファインディングでの航法に挑戦するとのことです。出来ればティコピアかアヌタで航法師を見つけたいそうですが、なんせ最後にこれらの島々で航法師の存在が報告されたのは35年前ですから、タウマコのカヴェイア師くらい長生きな航法師が居なければ、難しいかもしれませんね。

 ルートはこちら。
http://www.lapita-voyage.org/en/lapita_route.html

 気づいた方も居るかもしれませんが、これって実はモンゴロイドがユーラシア大陸を船出してポリネシアに向かったルートそのものなんですよ。これまでこのルートを航海カヌーとウェイファインディングで踏破したプロジェクトは無かったはずです。私が知らないんだから99%無いと思います。

 面白くなってきたじゃないですか。

 それとジェームス・ワーラム氏ね。これまでワーラム・デザインのカタマランというと、航海カヌーをやっている人々からは「あれは別物」という目で見られていたんですが(ベン・フィニー先生もどれかの本の中で、割と冷ややかに触れていた記憶があります)、こうなってくると話は違うでしょう。私は大いに感銘を受けましたよ。ティコピアやアヌタなんて地味な域外ポリネシアの為に一肌脱ぐなんてね。

 格好いい。この一言に尽きます。