手に入れたまま紹介するのを忘れていた本を思い出しました。
Tom Davis(Pa Tuterangi Ariki), Vaka:Saga of a Polynesian Canoe, University of the South Pacific.1999.
著者はパパ・トムの愛称で親しまれている、クック諸島の元大統領。1995年の集団航海の際には伴走船の有無を巡ってナイノア氏と激しく対立したことでも知られています。
本書は、そのパパ・トムが古代ポリネシアの航海カヌーをテーマに執筆した小説。表紙のイラストもパパ・トムですよ。結構分厚い本なので、まだ目を通したわけでもないのですが、なんとなくレア・アイテムかなと思って取りあえず購入。実は私、著者のパパ・トムのキャラが結構好きなんですよ。なんといってもナイノア・トンプソン氏を公然と批判しているほぼ唯一の人物ですからね。気骨がある。それに、よく考えてみるとナイノア氏とパパ・トムって、やっていることはあまり違わないんですよ。
彼がこれまでに建造した航海カヌーは2艘。1992年建造の「タキツム」と1994年建造の「テ・アウ・オ・トンガ」。2005年建造の「アオテアロア・ワン」のデザインも手がけたと聞いています。「テ・アウ・オ・トンガ」は本体にエンジンを装備しているという、割と変わった設計の航海カヌーですが、それを言うならばホクレアも船外機が付いていますから(港内への進入は動力船のみという港も結構あるそうです)、大して変わらない。
伴走船の件についても、ホクレアというかナイノアはエディの件がトラウマになっていますから、伴走船抜きの航海は絶対に認めないという立場ですけれども、じゃあミクロネシアの航海カヌーはどうなんだといえば、伴走船無しでも平気で行き来しているわけですし、その辺はそれこそ船長や船主の判断ですよね。パパ・トムの場合は「ちょいとそこまで」とか言って、伴走船無しでいきなりサモアとかアオテアロアまで出かけてしまう俺様っぷりが豪快です。
一部には、船のデザインも東ポリネシア風でおかしいぞなんて批判もありますが、クラブクロウ・セイルなんかうっちゃって西洋式のラテン・セイルを使っている最近のホクレアも、おかしいといえばおかしいわけです。
このように考えてみると、パパ・トムとナイノア氏の違いは、伴走船に関する考え方くらいのものではないでしょうか。それに、パパ・トムの航海カヌーへの情熱を私は好ましく思うんですよ。いくらナイノア氏がカリスマであろうとも、俺はこうしたいんだという主張を貫く態度ね。一服の清涼剤のようにさえ感じられる。
これからも健康で長生きして、突っ張り続けて欲しいです。