ミミ・ジョージ博士からの手紙

 サンタ・クルス諸島のタウマコ島で、「ヴァカ・タウマコ」プロジェクトに取り組んでいるミミ・ジョージ博士からメールが届きました。

 「ヴァカ・タウマコ」については以前にも紹介しましたが、タウマコ島は、ホクレア号が当初(マウ師以前に)航海士として起用することを考えていたテヴァケ師の住んでおられた島です。ここはポリネシアでも極めて珍しい、昔のままの航海術(ミミ・ジョージ博士はfull traditionalと表現しておられます)が残されている場所で、そのような観点からすると、ナイノアさんらの現代ハワイ式航海術とはまた違った意味で、極めて重要な場所なんですね。

 ミミ・ジョージ博士はリモート・オセアニアの伝統航海術の研究では草分け的な存在で、デヴィッド・ルイスが、後に「We, the Navigators」としてまとめられることになる研究を開始した当初から、デヴィッド・ルイスに協力していた方です。

 さて、私はジョージ博士が運営している「ヴァカ・タウマコ」プロジェクトのメーリングリストに入れていただくよう、メールを送ったわけですが、メーリングリスト参加承認の返事とともに、現在のプロジェクトの状況も少し教えていただくことが出来ました。ジョージ博士によれば、プロジェクトの次の目標として、サンタ・クルス諸島内に、伝統航海術を学べる学校の建設を目指しているのだそうです。
 それで、特にジョージ博士が強調しておられたのは、ありとあらゆる機材を伝統的素材と製法で作り、運行しているポリネシアの航海カヌーは、今やタウマコにしかないんだということ。ホクレア号は現代の素材を各所に使用しているし、航海術も近代西洋の天文学知識とミクロネシアの伝統航海術の折衷であって、もちろんそういう技術を学び、そういう船に乗ることも非常に良いことなんだが、何が本当に古代から伝わったもので、何が近代の産物なのかは、きちんと区別していかなければならないと、ジョージ博士は指摘しておられます。

 私は、この考え方にも一理あると思います。既に何度も述べているように、ホクレア号がそういう再創造された伝統の上に成り立っていることは、全く問題無い話だと私は考えています。しかし、今も古代のままの船と航海術があるとしたら、それはそれで大切にしていかなければいけませんし、それらを比較することで、リモート・オセアニアの航海カヌーそのものについての知識が、より深まっていくでしょう。

 ジョージ博士の研究スタイルは、ベン・フィニー博士とは異なったアプローチ、異なったフィールドで展開していますが、やはり尊敬すべき偉大な人物だと思いました。ホクレア号とヴァカ・タウマコ号、どちらにも素晴らしい価値があります。

 また、私はメールの中で「伝統に忠実な航海カヌーはポリネシアにもミクロネシアにも残っているし、伝統航海術もそうだ。マウ老師の門下生とポリネシア航海協会とホクレア号が全てではないことは、もっと広く知られるべきだ。」と書いたのですが、ジョージ博士はこれについても、興味深いことを書いておられました。
 曰く、「たしかにミクロネシアにも伝統航海術は残っているが、失われてしまった知識も少なくない。タウマコ島に伝わる知識とミクロネシアの伝統航海士たちの知識を突き合わせていけば、色々なものが復元できると思う。P・C・カヴェイア(ヴァカ・タウマコ号の航海士の名前と思われます)は、ミクロネシアの伝統航海士たちと会って、情報交換をしたいと願っている。しかし我々には資金が無い。」

 タウマコ島の伝統航海士とミクロネシアの伝統航海士がお互いの知識について語り合う。それは目眩がするくらいに意義深い試みになると思います。ジョージ博士のプロジェクトをサポートする方法が無いものか、考えてみたいですね。

 ちなみに、ヴァカ・タウマコ・プロジェクトが計画している伝統航海術の学校は、世界中の誰でも望めばそこで伝統航海術を学べる場所にするそうです。これも素晴らしいことです。

ヴァカ・タウマコ・プロジェクトのウェブサイト
http://www.aloha.net/~vaka/index.html