Another Cool Choice

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 昨日ははからずも「カマ・ク・ラ」計画の困難性を指摘して終わりましたが、今日はもうちょっと明るい未来も描いてみましょう。

 昨日紹介したホノルル・アドヴァタイザーの記事には、もう一つ、注目すべき記述があります。

"All the double-hulled families came here to show their support," said Nani Na'ope, a teacher at the Kanehunamoku Hawaiian charter school, which has its own, smaller double-hulled canoe.

 簡単に翻訳してみましょう。

「自分たちも小型の双胴カヌーを持っているカネフナモク・チャーター・スクールのナニ・ナポエ教諭は、『全ての双胴カヌーがここに来て、(ホクアラカイを)応援してくれました。』と語った。」

 チャーター・スクールというのはアメリカ独特の教育制度で、言ってみれば公設民営の教育機関です。地域住民が「こういう代替的な教育をやりたい」と申請して認められれば、そこでの学習が小学校や中学校相当のものとして扱われ、資金援助も貰える。ただし所定の期間内に言うような結果が出せなければ認定は取り消しというものです。

 ナイノアの父上でポリネシア航海協会の中興の祖であったマイロン・トンプソンの名を冠したチャーター・スクールもあります。

Myron Bennet Thompson Academy
http://www.thompsonacademy.org/

 このカネフナモク・チャーター・スクールというのはハワイ語によるイマージョン教育*1をやっている学校らしいのですが、調べてみるとこんな写真が。

Hawaiian school educates hands-on | The Honolulu Advertiser | Hawaii's Newspaper
Honolulu Hawaii News - HonoluluAdvertiser.com is the home page of Honolulu Hawaii with in depth and updated Honolulu loc...

 なんと、学校教育の一環として(外部の協力も得ながら)ポリネシアン・ダブルカヌーを建造しているんです。といってもサイズ的には小さめなので、ホクレアやマカリイのような遠洋航海は不可能でしょうが、ダブルカヌーという形態そのものが先住ハワイアンのエスニック・アイデンティティの象徴の重要な一部分ですし、遠洋航海は経済的にも技術的にも中等教育レベルでは不可能でしょうから、これはクールなチョイスです。というか、このカヌーで学んだ子供達がさらに高度な伝統航海術を学びたくなったら、その時点で大人の航海カヌーに移れば良い。既にハワイには5艘もの遠洋航海カヌー*2が現役で存在していますからね。

 さて、このカネフナモク・チャーター・スクールのダブルカヌーは、「カマ・ク・ラ」プロジェクトのような、リモート・オセアニアの外で航海カヌーを作る活動にも一つの示唆を与えてくれているのではないでしょうか。つまり、まずは小型のダブルカヌーで活動してみるということ。例えばOC6級の船体を流用してデッキを設置してクラブクロウ・セイルを1本立ててみる(実際の構造を良く知らないので適当に書いていますが)。それくらいなら数百万円で建造出来るでしょうし、相模湾内を走り回るのならひとまずは充分に勉強になりそうなものだと想像するのですが。

 いきなりフルサイズの航海カヌーを手に入れるよりも、カネフナモク・チャーター・スクールのように、サイズダウンしたもので試してみる。お金や人手が無いのなら、これは考慮に値する選択肢の一つかもしれません。こういうのだったら私も乗ってみたいな。

*1 教科学習に用いる言語を母語以外の言語にしてしまう方法の一種で、母語の方がその地域で優勢な場合(例えば日本国内で英語による全教科学習をするなど)はイマージョンimmersion bilingual education、教育言語の方がその地域で優勢な場合(ハワイでハワイ語による全教科学習をするなど)はサブマージョン教育submersion bilingual educationという。どちらも高いレベルでの第二言語習得を目指すものではあるが、まなじりを決してやると暇なポストコロニアリストから「言語帝国主義だ!」と攻撃されたり、暇な保守政治家から「国家を分裂させようとしている!」と叩かれたりして、相手をするのに無駄なエネルギーを浪費するので、取り扱いには格段の注意が必要。

*2 最近ではカネフナモク・チャーター・スクールのカヌーのようなダブルカヌーと区別するために、ホクレアやイオセパのような大型航海カヌーをDeep-sea Voyaging Canoeと呼ぶ事もあるみたいです。