最近集中的に読んでいるローズマリー・サトクリフ。
『ともしびをかかげて』(The Lantern Bearers, 1959)を読了しました。
このシリーズは日本では岩波少年文庫に入っているんですが、読んでいる限りでは今ならヤングアダルトですね、分類。
サトクリフは20世紀イギリスを代表する歴史小説家です。日本で言えば司馬遼太郎みたいな人。スペインで言えばアルトゥール・ペレス=レベルテ。
彼女の作品群でも最も有名なのが、ブリテン島駐留の古代ローマ軍人アクイラを祖とするアクイラ一族を主人公とするものです。
時系列順に並べると
The Eagle of the Ninth 『第九軍団のワシ』
The Silver Branch 『銀の枝』
Frontier Wolf 『辺境の狼』
The Lantern Bearers『ともしびをかかげて』
Sword at Sunset『落日の剣』
Dawn Wind『夜明けの風』
Sword Song『剣の歌』(遺稿集)
The Shield Ring 『シールド・リング』
私はこれまでに『落日の剣』、『夜明けの風』は読んで、本書が三つ目。
彼女の本を読んで毎回思うのですが、戦争の描写がやたらとリアルなんです。とにかくそこが一番気になる。
今作でも、歩兵、重装騎兵、軽騎兵、長弓兵といった兵種の違いが書かれていて、陣形も長槍を装備した歩兵を中心に、両翼に騎兵、歩兵の後ろに長弓兵というように兵科複合が正しく描写され、ブリトン人の武将である主人公はひたすら訓練訓練訓練の日々。その訓練も個々人の剣技とかではなく、騎兵なら騎兵としていかに集団戦闘をするかの訓練です。
いざ戦争が始まれば進撃路・補給路となる街道や渡河点の確保、同盟軍との折衝。会戦の前には陣形の準備(通常、大部隊が戦場に到着してから戦闘可能な陣形を組み終わるまで丸一日かかります)。会戦が終われば残敵の掃討、負傷者の収容と治療。
主人公アクイラは最後のブリタンニア駐留ローマ軍団で正規の将校として教育を受けたエリートの勇将ではありますが、彼の武勇が戦闘の帰趨を決するような場面は一度もありません。何年もかけて部隊を訓練し、戦場では部下の士気を高め、時には少数の守備隊で渡河点を防衛し、決戦の前には他の武将との会議。決戦の後にも会議。そして実務部隊のトップとして現場を駆け回って指示を与え。あまりにも忙しくて妻子には滅多に会えず、家庭は崩壊寸前(T_T)。
これのどこが児童文学やねん。サラリーマン残酷物語だべ。
実は彼の遠い子孫(180年くらい後)のオウェインも『夜明けの風』では、零細企業の事業承継を託された専務みたいな立場で苦労するんですよ。もう呪いですねアクイラ一族にかけられた。
サトクリフは世代としてモロに第2次大戦を経験している人なので、陸軍のリアルというのを周囲から聞いて知っていたのかもしれないですね。余談ですがペレス=レベルテの「アラトリステ」シリーズも戦闘の描写がリアルでおすすめです。