海が見えるアジア

 本の紹介です。

門田修『海が見えるアジア』1996年(めこん)

 『南の島へ行こうよ』『漂海民:月とナマコと珊瑚礁』と紹介してきました門田さんの本です。この本では東南アジア島嶼部を中心に、東アジアや南アジアにも足を伸ばして、人々と海の様々な関わりを紀行文にしたためています。面白いのは、国ではなく海域を単位にして編まれていること。例えば漂海民のバジャウ(他称ですが)が生活するのはフィリピンとインドネシアに跨る海域ですから、これをフィリピン、インドネシアで分けてしまうと逆にわかりづらいという配慮があるようです。

 セレベス海、ジャワ海からマラッカ海峡と西へ進むごとに、オセアニア的な風景からアジア的な風景へとなだらかなグラデーションを描いて変化していっているのもわかり、さらに北へ進んでフィリピンと台湾の間の海域(バシー海峡)では、スペイン文化の残るフィリピン最北端の島と日本語の残る台湾の離島が対比され、さらにその両者に通底するものとしての黒潮文化の香りを著者は描き出しています。

 前回紹介した『漂海民:月とナマコと珊瑚礁』からおよそ15年ほど経っている文、著者の文章もアクがいい具合に抜けて来ており(たとえば延々と続く自問自答のような部分が消滅している)、とても読みやすく、また深みも出てきており、好感を持ちました。

 航海カヌー文化には直接関係無いかもしれませんが、ラピタ人を生み出した海洋世界の現在を知るにはとても良い本だと思います。お奨め。

追記:とってつけたような性的比喩表現(なんだか無理矢理にやっているのではないかというくらい唐突に出てくる)はまだ若干残っているので、そういうのが苦手な人は注意。

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