おもろいカネの使い方

 知り合いから「東日本大震災被災青年支援奨学金基金」というプロジェクトを教えてもらった。平たく言えば、震災の被災地の若者の大学や専門学校進学を、給付奨学金で支援しようというプロジェクトだ。

 その志はとても立派だと思う。大変に意義のあるプロジェクトであることはたしかだ。ただ、疑問に思う点も無いわけではない。気になるのは2点。選考方法が現時点で示されていないことと、「高校の学業成績の平均評定が3.8以上であること」という基準。

 選考方法がよくわからないので、蓋を開けてみたら東大や東北大、早慶など大学ヒエラルキーの一番上にある大学の学生にしかお金が出なかったという可能性も捨てきれない。そうなったら「結局は東大の総取りかよ」みたいな気分になりそう。その辺がはっきりしないなら、俺は母校である立教の校友会の被災学生奨学金に金を出したい。

 もう一つ、高校の時の平均評定で切っていること。これ、最上位校の中位~下位層(MARCHや地方国立大に行く子たち)がやたら不利。たしか俺(愛知県の最上位校の落ちこぼれ生徒)は平均3.2とかだった。いや、もっと低かったかもしれない。‎2.8みたいな数字だった気もする。

 いずれにしても。何かこう、真面目過ぎて夢が無いなと感じる。現在集まっているお金で支給出来るのが8人強だそうだが、それくらいの数字だと、本当にブランド大学への進学者だけで山分けということになってしまいそうだ。だが、初等中等教育での教科学力と親の収入にはかなり強い相関関係があるというのも知られた話。要するに親がお金を持っていれば学力も高い場合が多いってことだ。となると、相対的には被災地の中でも豊かな家の子供たちにお金が渡って終わり、ということにはならないか? 奨学金の主宰者は開発経済学の研究者なので、その辺のことは理解していないはずは無いし、とすれば何らかの補正をかける可能性は大きいが、それにしても平均評定3.8で切られてしまっては、ここで一念発起して故郷を立て直したるという落ちこぼれにはお金は回らないだろう。

 資金の集まり方を見ても、実際にお金もらえるのって、ほんとたいした人数にはならんはずだ。だったら、成績上位者とかブランド大学合格者みたいな夢の無い基準じゃなくて、なんかこう、金出した人間、選考通らなかった人間、もちろん選考通った人間と、みんなで盛り上がれるような、バカバカしい基準が良いと思うんだ。俺は。選考通らなかったやつも腹抱えて笑ってさ、「お~お前みたいなバカにだったら負けても悔しくないぜ! もっともっとバカ道突き進んで突き抜けていけよ!!」ってなるようなさ。金もらえたやつが「まかせとけ! 俺は突き抜けて帰ってくるから、そんときはおまえらも一緒に東北盛り上げようぜ!」って言えるような。

 要は金の使い方をどう工夫出来るか。どうおもろく出来るか。この感じのままだと、真面目な役人の考える公共投資みたいで、本当につまんないんだ。真面目なのはわかるけどさ。道路つくるとか瓦礫撤去するみたいな感じで、地味だし広がりが無いんだよね。直接カネが使われた場所、事業受注した会社くらいしか幸せになれない感じ。

 たとえばこういうのはどうだ。

「この奨学金を受けた人は、大学在学中に何らかの形で必ず『日本一』になってください。スポーツでも学問でも芸能でも、それ以外の何かでも良いです。とにかく『日本一』になって、なるべく沢山の人を笑わせてください。なので『日本一』になれなかった人は半額を返還していただきます。返還されたお金は全て次の奨学生へ支給する資金に統合されます。審査ではあなたの『日本一達成計画書』をご提出いただき、応募者同士の互選で受給決定者を選んでいただきます。受給決定者は、選に漏れた応募者全員と握手をしてから受給決定通知書を受け取ります。」

 もちろん審査は公開。ウェブストリーミングもやってみんなで盛り上がる。ストリーミング中も寄付は受け付ける。これなら、同じ200万円なら200万円でも、カネをもらえなかったやつだって元気になれるし、上手くやれば応募者同士の横のつながりが生まれる。Aというやつがみんなに選ばれて、みんなの代表として日本一を目指すことになったとして、Aの周りには、選には漏れたけどAの日本一計画をサポートする仲間の輪が出来るかもしれない。その絆やネットワークは、おそらくは年間50万円の現ナマよりも被災地の将来に長期的に効いてくるはずだ。同じ200万円を使うのでも、ちょいと成績の良い個人にポンと渡して終わりにするより、その個人が同じような経験を共有する仲間たちとネットワークを築き、育てていけるようなシチュエーションを作る形で使う方が、絶対に面白い。

 せっかく集まったカネ。何か工夫して使って欲しいね。

※ちょっとだけ追記。俺は以前、とある仕事で欧米の巨大NPOのアフリカ援助プロジェクトの内部文書を読む機会があった。そこで問題になっていたのは、とにかく高等教育を受けた専門職(医者や弁護士や法律家だ)がアフリカ諸国には不足しているということと、欧米から奨学金を出して現地出身者の専門職を育成しても、なかなか祖国に戻ってくれないということだった。だから祖国戻りの縛りをかける奨学金を出すのが普通だった。第三世界や少数民族支援なら、一番アタマが良いやつを選んで集中的にカネを出してエリートを養成し、故郷に戻ってもらうというのは一つの有効な手法だ。

だが東北の被災地は第三世界ではない。トップエリートにピンポイントでカネを出してプロを育てるというアプローチよりも、様々な業界に散らばりつつ故郷の再生の為に長く粘り強い活動を続ける人材のネットワークを育てるアプローチの方が良いと、俺個人は考える。