ギターとの別れ

 多摩が誇るギター職人の飯沼さんにフレット打ち換えをお願いしておいたFST-135を引き取ってきました。このギターのフレット打ち換えは2度目で、前回は、当時飯田橋の麹町郵便局の隣にあったMOONのリペアショップでした。そのMOONはとうの昔に飯田橋のショップをたたんで今は小野路に本社があるんですが。だからMOONも多摩のギターメーカーってことになるのか。

 飯沼さんの仕事はさすがの仕上がりで、ローポジションからハイポジションまで音詰まりなんてもちろんなく、これまでで最も弾きやすい状態に持ってきてくれました。フレット打ち換えは雑司ヶ谷にある某メーカー直営店とか、原宿にある老舗の松下工房なんかにもやってもらったことがありますが、私の印象では飯沼さんと松下工房が仕上がりではまあ互角、雑司ヶ谷のショップはかなり見劣りする仕上がりでした(ナットの高さ調整が変で、結局飯沼さんにナット交換してもらったくらい)。飯沼さんの仕事は一分の隙も無いんだけれども、ご本人の人柄を反映してか、どこか暖かみとか優しさを感じるギターになるんです。「一流の職人が仕上げた工芸品」という感じ。松下さんの方は「精度高く仕上げられた上質の工業製品」というイメージだな。

 さて。そのFST引き取りのついでに、ボディトップが膨らんできたヤマハの30年以上前のFGを診てもらいました。飯沼さん、実はFGは結構好きなギターだそうで、「これはなかなか鳴りそうなギターですね」とあちこちチェック。だがしかし。ボディトップのコンディションはかなり厳しいようで、ブレーシングがハガレているとかではなく、もうブレーシングごと相当に上がってきてしまっていると。だから弦高を常識的なところに収めるためには相当の大工事(指板修正+フレット打ち換え+ナット交換+ブリッジ全交換)が必要になるとのこと。

 私は最近どうもドレッドノートサイズのギターがしっくり来ないと感じていたので、思い入れのある個体ではあっても、同じお金を出すならもっと小さいダブルオー級あたりに入れ替えたい。だから残念だけどこのギターを治すのは諦めようと思う(=廃棄)と伝えると、飯沼さんの表情が曇りました。まだまだ活躍できるチャンスがあるギターが廃棄されるのは悔しいですからね。そこで、飯沼さんにこのFGを差し上げることを提案すると、飯沼さんは「ありがとうございます! ちゃんと復活させますよ!」と大層喜んでくださいました。いやそんな。こういうものは必要とされる所に行くべきですからね。私としても、飯沼さんのような方に引き取っていただけるのは本当に嬉しいことでした。

飯沼ギターズ(現在は大分県に住んでおられるようです)
http://iinuma.michikusa.jp/