津波デーにぶち当たってまともに放映されなかったバンクーバー五輪のフィギュアスケート・エキシビジョンをやっと見ることが出来ました。
特に印象に残ったのは、安藤美姫さんと申雪・趙宏博夫妻。安藤さんはショートプログラムで使ったモーツァルトのレクイエムのエクステンデッドバージョンでしたが、もんの凄い存在感でしたね。元世界女王なんだから、当たり前といえば当たり前ですけれども。画面から伝わってくる威圧感はメダリスト3人を遙かに超えていたな。そして、私の記憶に間違いが無ければ、安藤さんはエキシビジョン・プログラムの中でジャンプは1回しか飛んでいない。かつては試合の度にマスコミに4回転4回転と、そればかり話題にされていた彼女ですが、今やステップとスパイラルとスケーティング、そして表情だけであれだけのショーをやれるまでになったんですね。
今回のオリンピックではこうした表現力の部分で勝負が分かれ、しかも金選手やロシェット選手のように、典型的な「女性らしさ」を思い切り表現出来た選手がGOEを山盛りに稼ぎました。浅田選手は4位以上の選手の中ではこの部分が追求しきれていなかったと思いますし(昔書いたと思いますが、本来彼女は日本人選手の中でもそうした表現力には特に優れた選手です。今回のラフマニノフはオリンピックシーズンでやるには難しすぎたかな)、安藤選手はそうしたジェンダーを越えた、一人の人間としての表現を追求していて、GOEで今ひとつ稼ぎきれなかった。
まあ、伝統的なジェンダー観に従った「女性らしさ」をどれだけ表現出来るかの競技だと言われれば仕方無いんですけどね。伝統的なジェンダー観の表現が悪いってわけでも無いですし。申雪・趙宏博夫妻なんか、ペアの選手なのにアイスダンスの選手よりも「夫婦愛」を表現してましたから。かつてあれだけ夫婦愛を表現したプログラムって無いんじゃないですかね。最後のあの、あれなんか、私思わずトイレに行ってしまいましたよ。どこまで見せつけてくれるのこの人たちは。
話を戻しましょう。安藤選手ね。伝統的なジェンダー観に従った「女らしさ」の表現に限れば、この先も金選手には敵わないと思います。金選手は体型や顔立ちからして、その方面に非常に向いているしね。ですが、表現者として見るならば、安藤選手、いや、安藤さんはこれからどこまで深いところに行くのかとても楽しみな人です。女子シングルのスケーターの歴史を考えても、ジェンダーを越えた表現を彼女のような高いレベルで追求した人って居ないと思いますから。