アルミフレームを駆る者たち

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 乗鞍エコーラインを自転車で上ってきました。

 日本一高い場所にある車道。それが乗鞍エコーラインです。といっても現在は許可された車両しか入れないんですけどね。

 富士あざみライン、暗峠と並ぶ日本のヒルクライムの文字通り最高峰だけあって、沢山の自転車が乗鞍の頂を目指しておりました。

 彼らを大きく分けると三つのグループに分類できます。一つはレースに出ているハイアマチュアたち。見事に鍛え上げられた肉体と、戦いのための道具として使い込まれたカーボンフレームでぐいぐい上っていきます。

 一見、彼らと同じようなライダーですけれども、よ~く観察してみると明らかに遅いのが中高年ファンライダーたち。使っているバイクは一番高そうで一番ピカピカです。でも体つきもライディングフォームも速度もぜんぜん違う。クソ重いシクロクロスバイクにフロント22Tなんて駆動系の私と同じくらいの速さで上っていきます。現在のバイクブームを支える屋台骨とも言えます。あの別府史之選手が、つまり日本のローディー史上最も偉大な人物の一人がツール・ド・フランス以外で使っているフレーム(コガのフルプロスカンジウム)の倍くらいの値段のフレームをポン買いしてくださるわけですから、こんな有難い人たちはおりません。

 そして最後の一つが、ぼろぼろの安物アルミフレームを駆る若者たちのグループ。ある若者はジャイアントのROCK5000などという安価極まりないMTBフレームを大改装したランドナー風の愛車にテントとシュラフと炊事道具と着替えを満載して、名古屋から北海道を目指しておりました。名古屋大学の自転車同好会に所属しているそうで、旅から戻るのは1ヵ月後だそうです。

 トレックのやはりポンコツフレームにパニアバッグを装備して乗鞍に挑む若者もおりました。フロント36Tにリア34Tは無謀なギアリングでしたが、数時間後、富山市内の道の駅で彼の姿を見つけることが出来ました。「乗鞍越えられた?」と声をかけると、「大丈夫でした!」と元気な返事が返ってまいりました。最終的には北海道を目指すそうです。

 彼らも10年後、20年後には高価なカーボンバイクを手に入れるのでしょう。でも私には、彼らのポンコツのアルミフレームたちがこの上なく輝いて見えました。ここまで使い倒して貰えれば君たちも幸せだろうと。この夏、自転車を最も深く楽しんでいるのはあのポンコツアルミバイクを駆る若者たちでしょう。

 今、ロードバイクブームに乗って沢山の雑誌やムックが出版されています。ですけれども、その多くは新車のバイヤーズガイドであったり、もはや超過密状態でロードバイクでは走るべきでない状況のサイクリングロードを安易に薦めたりという具合で、個人的には共感できる部分が見当たらないようなものが多いように感じています。

 ポンコツのバイクを使い倒すこと。名うての峠をそれで越えてみること。どちらも、自転車の楽しみ方としてはかなりグレードが高いところにあると言えるでしょう。そこまできちんと語れるような雑誌なりムックなりが出てくることを期待します。