川瀬智之『東京藝大で教わるはじめての美学』書評

川瀬智之『東京藝大で教わるはじめての美学』世界文化社、2024いったいどんな内容かと思ったら著者の専門である20世紀フランスの絵画論に特化した本でした。

取り上げているのはアラン、サルトル、メルロ=ポンティ、デュフレンヌ、マルディネ、アンリ。

一応古い方から新しい方に並べてあって、サルトルとメルロ=ポンティが入っていることから推察出来るように現象学系の絵画論です。ほとんどは具象画を想定してますがアンリは抽象画も議論の対象にしてますね。

私は自分の博論が現象学系だったんで特に苦労も無くさらさらと読めましたけど、アマゾンレビュー見たら皆さん「わかりづらい」と文句たらたら(笑)

たしかに初学者向きの本ではないですねこれは。タイトルは昨今の藝大プチブーム便乗なんだと思いますが、中身もいきなり新入生に「これが美学です」って教えるもんじゃない。

シラバスを見たら川瀬智之さんが藝大の美術学部でやってる美学史概説はごくスタンダードな構成で古代から現代まで紹介してるやつだったんですが(音楽学部の「美学I/II」は吉田寛さんでそっちはメディアアート系のスタンダードな論点のセットだった)、そっちの内容だと他の本と差別化出来ないって判断でこのマニアックなやつに「東京藝大で教わるはじめての」ってタイトルつけちゃったんだな。

絵描きさんにはそれなりに示唆を多く含む本ではあるのですが、最初に読む本じゃないですね。あと独学で読むとアマゾンレビューみたいに「わからない」で終わりそう。内容についてちゃんと解説出来る先生の講義で読むのがベストだと思います。

現象学から神経美学への接続まで範囲に入れて教えてくれる先生だと最高だけど、さすがに高望みしすぎか。

ついでに藝大の美学の講義について思ったんですが、現代アートのアーティストやキュレーター志望なら吉田さんと川瀬さん両方ちゃんと履修しとかないと後から確実に後悔しますよ。卒業する前に履修しちゃいましょう。