松田聖子的南島歌謡礼賛

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 ここ1ヶ月ばかり松田聖子を集中的に聴いています。
 近所のハードオフでLPが1枚100円の投げ売りだったので、良い機会だと思って彼女が最初に結婚するまでのアルバムをほぼ全て集めてしまいました。そんなわけで松田聖子。音楽のクオリティは凄いですね。まず歌がやったらめったら上手い。この音程の見事さはア~イドルどころか「Jポップ」時代の「ディーヴァ」さまたちでもほぼ居ないですよ。ヴォーカルスタイルも唯一無二。彼女にしか出せない声と歌い方。マライア・キャリーあたりのデッドコピー唱法でアーティストを名乗る人は赤面して去りなさいと申し上げたいですね。日本のポピュラー音楽史上、このレベルの独創性があった女性歌手というと矢野顕子、谷山浩子、荒井由美、上野洋子(なんか「ニューミュージック」の人ばかりだな)とか。そのくらいの才能だったんですね。彼女がアイドルをやっていた時には気付かなかったんだけど。

 楽曲も異常に力が入っていて、アイドル歌謡なのに年2枚のアルバム収録曲の大半がシングルカット出来るレベル。しまいにはアルバムにも入らなくてシングルのB面だった曲まで大ヒットしてしまうわけで(「Sweet Memories」)。こんなものが100円で良いんですかね。申し訳ない。

 さて。そんな彼女のアイドル時代の楽曲を眺めていると、南の島の夏と海をテーマにした曲がなかなかに目立っているのです。「青い珊瑚礁」「パイナップル・アイランド」「小麦色のマーメイド」「天国のキッス」「セイシェルの夕陽」「Sleeping Beauty」「スピードボート」「MAUI」「夏の幻影」。

 まあ殆どは松本隆作詞になるのですが、三浦徳子や尾崎亜美が書いた歌詞もありますね。

 それで、面白いのは、これらのほぼ全てがビーチリゾートの歌だということ。珊瑚礁は出てきてもアウトリガー・カヌーは出てこない。サーフィンは出てきてもローカルは出てこない。いや、それ以前にサーフィンが出てくるのは1984年の「MAUI」くらいのもので、後は基本的に砂浜かヨットかというとこなんですよねえ。そうヨット。この時代は海といえばサーフィンよりヨットだったんでしょう。もちろんタロイモもガムランもケチャもモアイも出てこない(モアイは出さないか普通)。

 そういうのがおかしいとか駄目って話じゃないですよ。これだけ素晴らしい音楽を作ってくれたんだから、そんなこたあどうでも良い。むしろこのシンプルさが嬉しくなっちゃうんです。南の島といえば青い珊瑚礁で渚に白いパラソル、ヨットの上で天国のキッス。貧困といえば貧困なイメージではありますが、南の島がそういうものを売って生計を立てていたのも事実ですしね。

 翻って近年では、ハワイとタヒチとバリ島とプーケットの何が違うのかも認識されるようになっていますし、それぞれの土地に固定ファンがいる。そしてサーフィンにしろガムランにしろアウトリガー・カヌーにしろ、ローカルな文化の深い部分を追求していこうという日本人も沢山いる。これはとても良いことで素晴らしいことではあるのですが、その反面、ディープ体験自慢になってしまっている一面も無いわけではない。と感じるのですよ。ディープなロコの友達がいることが自慢の種になってしまう。「あの人はあんなこと言ってるけど、実は何もわかっちゃいないんだよね。俺がディープなロコの知り合いから聞いた話じゃあさ・・・・」という話法が生まれてしまった。そこに息苦しさを感じないでもない。

 現代に松田聖子のような、最高のスタッフを結集したアイドル歌謡があったとしたら、果たしてそのアイドルはどんな「南の島」を歌えるのか。松田聖子が歌ってみせたような、「南の島」の楽しさや良さをストレートに表現することは、現代では可能なのか。これはおそらく、ディープ体験較べという心性をいかに解毒するかがキモになるのでしょうね。

追記:ところで「小麦色のマーメイド」のイントロって、Daryl Hall and John Oatesの"Sara Smile"まんまですね。どちらも超有名曲なのに、全然気付かなかった。作曲・松任谷由実、アレンジ・松任谷正隆。お見事。