本ウェブログは、捕鯨は日本の大切な海洋文化であるから守らねばならないという立場を既に表明しておりますが、先頃、グリーンピース・ジャパンなる団体が、「日本人の77%が公海での捕鯨に賛成せず」という調査結果を発表しました。以下、プレスリリースです。
「77.4%の人々が、南極海などにおける公海での捕鯨に賛成していないことが、本日発表された「捕鯨に関する生活者意識調査」で明らかになった。
この調査は、環境保護団体グリーンピース・ジャパンが(株)日本リサーチセンターに委託して行ったもの。6月2日から6月8日の7日間、日本全国から1000人を対象にインターネットを通して行われ、「捕鯨は日本の伝統文化だと思いますか?」など17の質問からなっている(注1)。この調査の報告書は、日本の捕鯨問題の実態がIWC参加国に知られていないことを受けて、英文で発表された。
「日本は捕鯨をどうしていくべきだと思いますか?」の問いに対し、「日本沿岸での捕鯨も、公海での捕鯨もやめるべき」が24.8%、「日本沿岸での捕鯨は行うべきだか、公海での捕鯨はやめるべき」が44.2%、「その他」が8.4%。合計77.4%が南極海などの公海での捕鯨に賛成していないことがわかる。またこの問いに対し、「捕鯨を公海と日本沿岸の両方で行うべき」と答えた人は全体の22.5%にとどまった。
「国際的に一時中断されている商業捕鯨を再開することに賛成ですか、反対ですか?」の問いには、「賛成」が34.5%、「反対」が26.4%、「どちらでもない」が39.2%。2002年に朝日新聞社が行った調査での同様の質問への回答(注2)と比較すると、「賛成」、「反対」とも減少し、「どちらでもない」が2倍以上となり、日本人にとって商業捕鯨自体への関心が低くなっていることを示す。
「捕鯨は日本の伝統文化だと思いますか?」の質問には、「そう思う」が29.5%、「ややそう思う」が31.3% で、両者を合計すると60.8% だが、「南極海などの公海で行われる『遠洋捕鯨』は日本の伝統文化だと思いますか?」の問いには、36.5%が伝統文化ではないと考え、伝統文化だと考える32.1%を上回った。
「今回の国際捕鯨委員会(IWC)で日本政府はすべての捕鯨に日本人が賛成しているようなメッセージを出すだろうが、それが事実でないことがこの調査結果で明らかになった」と、グリーンピース・ジャパン、キャンペーン部長の佐藤潤一は語る。「日本人は調査捕鯨の実態も知らず、またほとんど鯨肉を食べていないことも調査が示している。この調査で明らかになった日本人のクジラへの考え方を代弁しない水産庁は、税金を使って調査捕鯨を続けるべきではない」と、佐藤潤一は語る。」
ずいぶんとしょったことをおっしゃっていますが、幸いにもこの調査はリサーチ・デザインが公開されているので、そちらを覗いてみました。こちら。
http://www.greenpeace.or.jp/press/reports/q_whaling_jpn.pdf
この文書の29ページ以降が質問票になっているのですが、Q6以降は露骨な誘導質問です。
例えば
Q6あなたは日本が「生態系調査」という名目で「調査捕鯨」をやっていることを知っていますか?
Q7あなたは日本政府が「調査捕鯨」に年間5億円の補助金を出していることを知っていますか?
Q8あなたは日本政府が日本の海域だけでなく公海で捕鯨をしていることを知っていますか?あ
Q9「あなたは南極海が国際的に「クジラ保護区」に指定されていることを知っていますか?
Q10あなたは南極海のクジラ保護区内で、日本政府が絶滅危惧種10頭を含む850頭以上のクジラを捕獲していることを知っていますか?
以下、馬鹿馬鹿しいので略。こういった質問を連ねて最後に
Q17あなたは、今後日本は捕鯨をどうしていくべきだと思いますか?
Q18あなたは、国際的に一時中断されている商業捕鯨を再開することに、賛成ですか、反対ですか?
…となります。この中には
Q あなたは、日本政府の調査捕鯨が国際法に一切違反していないことを知っていますか?
とか、
Qあなたはミンククジラやマッコウクジラが絶滅の危機に瀕していないどころか、これらのクジラ類が激増しているせいで、ナガスクジラやシロナガスクジラの資源量が回復しないのではないかという、それなりに有力な学説があることを知っていますか?
という質問は無いわけです(笑)。
さて。ここに放送大学の学部生向けの教科書、『改訂版 社会調査の基礎』があります。67ページを開いてください。じゃあ佐藤君、読んでみて。
佐藤君「はい。『質問文の中に回答者の判断を誘導するような偏った表現(バイアス)があり、回答内容がそれに左右されてしまう場合がある。たとえば<今や一家に一台のコンピュータは常識となっていますが、あなたはコンピュータ通信に興味はありますか>と質問されたとすると。回答者は<興味がない>と回答すると遅れていると思われるのでは、と考えて、回答が肯定的に偏るような場合である。意図的な場合もあるが、もちろんその回答結果は信頼に足る適切なものとは言えない。』」
賢明な読者はもうおわかりでしょう。この調査は、予めグリーンピース・ジャパンが希望した結果を出すように注意深くデザインされたものなのです。そうでしょ、佐藤君?
別にこういうことをするなとは言いませんが、こういうことをやっていると、グリーンピースという団体の信用がどんどん低下していくような気がします。私? 私はこの団体はもとより一切信用しておりません。
なお、Q10にある「絶滅危惧種10頭」とは、ナガスクジラ推定資源量47300頭のうちの10頭で、2005-06年から5年間で50頭を獲るというものです。それ以前にナガスクジラを獲ったことはなく、これ以後に獲る予定も今のところありません。
http://www.whaling.jp/qa.html
ちなみに、絶滅危惧種を帆芸対象としている国は、日本の他に三つあります。米国・アラスカエスキモーおよびロシア・チュクチ先住民がホッキョククジラ推定資源量約8,000頭のうち、年間56頭ずつ。 米国ワシントン州マカ族およびロシア・チュクチ先住民がコククジラ推定資源量約26,300頭のうち、年間で124頭ずつ。デンマーク・グリーンランド住民がナガスクジラ推定資源量約47,300頭のうち年間19頭ずつ。ミンククジラ推定資源量約30,000頭のうち、年間187頭ずつ。
わお。4730分の1が可愛く思える数字が並んでますね。特にホッキョククジラは総資源量の142分の1を毎年獲ってるんですって。本当かよ!!
次からはこういう情報も質問票に入れるようにしましょうね、でないと単位はもらえませんよ。わかりましたね、佐藤君。じゃあ、今日の「社会調査法」の講義を終わります。ではまた来週!
※調査を担当した会社の「まとめ」が涙をそそります。曰く「若年層では商業捕鯨再開に反対する傾向が見られるものの、クジラを取り巻く環境、あるいは日本の捕鯨の実態について詳しいわけではなく、ましてやIWCによる国際決議について認知しているわけではない。このような若年層における商業捕鯨再開についての反対意見は、必ずしも捕鯨に関する十分な知識に基づいたものではない、と言えるだろう。」
お仕事としてグリーンピース・ジャパンに都合の良い結果を出さざるを得なかった、しかしバイアス質問の何たるかくらいは知っていた方々の、せめてもの抵抗に思えます・・・・