ミクロネシア連邦憲法

 かつてハワイの若者たちに伝統航海術を伝え、リモート・オセアニアの航海カヌー文化復興運動の礎としたのは、ミクロネシア連邦に属するサタワル島のマウ・ピアイルグでした。

 現在ミクロネシア連邦となっている島々は、かつてはいくつかの領域に分かれて緩やかな連帯関係の中にあり、その後はドイツ、次いで日本の支配するところとなりました。少し前にこれらの島々で最長老だった世代の中には達者な日本語を話す方も多かったそうですし、日本の企業のマークの刺青を入れている方も珍しくありませんでした。

 この島々は第二次大戦後、アメリカ合衆国の統治を経てミクロネシア連邦として独立しましたが、その憲法の前文がなかなか読ませます。

 現在、日本国でも改憲の動きが活発です。私自身は自民党の改憲案に全く同意出来ませんが、憲法を真面目に論じる事は大切だと思っています。今日はミクロネシア連邦の憲法の前文を全訳しますので、日本の南隣の国の憲法がどんなものか、味わってみてください。

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PREAMBLE
前文

WE, THE PEOPLE OF MICRONESIA, exercising our inherent sovereignty, do hereby establish this Constitution of the Federated States of Micronesia.
 独立した国家を構成している我々ミクロネシアの民は、ここにミクロネシア連邦憲法を発布する。

With this Constitution, we affirm our common wish to live together in peace and harmony, to preserve the heritage of the past, and to protect the promise of the future.
 この憲法により、我々は我々に共通の願いである平和と協調の中の共生を確かなものとし、過去から受け継いだ遺産を継承し、確かな未来を作り出してゆくものである。

To make one nation of many islands, we respect the diversity of our cultures. Our differences enrich us. The seas bring us together, they do not separate us. Our islands sustain us, our island nation enlarges us and makes us stronger.
 数多くの島々が集まって一つの国家を作るにあたり、我々は我々の間にある文化の違いに敬意を払う。我々の間にある差異こそが、我々を豊かにするものである。海は我々の間を引き裂くものでは無い。海が我々を繋げている。我々の島々が我々を支えてくれているのであり、島国である我々の祖国が我々を育て、我々に力を与えてくれるのである。

Our ancestors, who made their homes on these islands, displaced no other people. We, who remain, wish no other home than this. Having known war, we hope for p
eace. Having been divided, we wish unity. Having been ruled, we seek freedom.
 我々の島々に故郷を求めた我々の祖先は、いかなる人々からも土地を奪わなかった。その末裔たる我々の故郷もまた、この島々の他にはあり得ない。かつて不幸にも戦争を経験した我々は、平和を望む。かつて不幸にも引き裂かれていた時代を経て、我々は団結を願う。かつて不幸にも他国の支配下にあった我々は、自由を希求する。

Micronesia began in the days when man explored seas in rafts and canoes. The Micronesian nation is born in an age when men voyage among stars; our world itself is an island. We extend to all nations what we seek from each: peace, friendship, cooperation, and love in our common humanity. With this Constitution we, who have been the wards of other nations, become the proud guardian of our own islands, now and forever.
 ミクロネシアの歴史は、人類が筏とカヌーによる探検を開始した時に始まった。ミクロネシアの民族は、人類が星々に導かれて海を渡った時代に誕生した。我々の住む世界そのものもまた、宇宙に浮かぶ一つの島国である。我々は全世界の諸民族の間に、平和、友情、協調、そして我々人類が共有する人間性への愛を拡げてゆくものである。これまで他国の保護国であった我が国はこの憲法をもって、これより、そして永遠に、我々自身の島々の誇り高き管理人となる。
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 どうですか。3段目なんかそのまま日本国の憲法にコピペしたくなるような名文じゃないですか。日本国もまた無数の島々が海によって繋ぎ合わされた国家であり、その中には様々な出自、様々な歴史、様々な言葉を持つ人々が集っています。
 
 それに最終段の書き出しも詩的で素晴らしいですね。カヌーなんて言葉を憲法前文に使っている国が他にあるのでしょうか。カヌーこそが誇りであり、民族の原点であるという、リモート・オセアニアの島々の心意気が伝わってきます。