『ロジカルな田んぼ』とインテュイティヴな社会起業

ETICというNPOの社会起業ブートキャンプを、社会学者・大学教師の目から見ての感想をもう一つ。

ちょっと前に『ロジカルな田んぼ』(松下明弘著・日本経済新聞出版社・2013)という本を読みました。静岡の稲作農家の松下さんという方が書かれたもので、自分の使っている田んぼからいかにして高品質な米を収穫するかを追求し続けた経緯が、非常に読みやすい文章で書かれています。

松下さんのアプローチはシンプルです。品種の選び方、土壌の管理方法、肥料の配合と量、農作業のオペレーションなど、自分の事業のありとあらゆる部分を徹底的に論理的に分析し、トータルで最もバランスの良いポイントはどこかを追い込んでいく。こう書くと簡単ですが、やれる人は滅多に居ないでしょう。現に、松下さんは大量の見学者を受け入れ、自分のやり方は全て隠さずに教えているそうですが、なかなか真似出来るもんじゃないそうです。

何故そうなるのか。だって、どの農家も松下さんの事業とは気候も違えば水温も土壌も水はけも経営規模も人材も違うわけで、形だけ松下さんのスタイルを真似ても、CFカードスロットにSDカード突っ込むようなもんで、合うわけがない。

学ぶべきはその論理性であり、論理的な実験によって最適化を追求していくプロセスに他なりません。

そういう視点から社会起業家予備軍とその教育プログラムを見ると、私には少々感覚に頼りすぎているように感じられたわけです。例えばあるフィールドでこんな問題があるから、このソリューションを試してみたいと思っている。じゃあ何故そのソリューションが効くと思ったの? そこで明解に、30秒で(と講師の方は言っていました。エレベータテストですね)説明出来たら強い。

あるいは、このフィールドでこのソリューションを試してみたら何か効果あったんです。じゃあ何故そのソリューションは効果があったの? 「わからない。とにかく効果があったんです。」じゃあ、規模を大きくしたら効果が消えるかもしれないし、別のフィールドに持って行ったら機能しないかもしれないよね。より効果のあるソリューションへとチューンナップしていく際にも、何故効果が出ているのかはっきり理論化しないままだったら、どこをいじれば良いのかが決められない。

講師さんが最初のレクチャーで言ってたじゃないですか。ノーベル賞を取るような人は実験プロセスそのものの理論化が卓越しているんだと。あれをもっと分かりやすく言えば、自分が取り組んでいる課題の急所はどの辺りにありそうなのか、狙いを付けて照準を絞り込む能力が高いということであり、何故その能力が高いのかといえば、自分の課題の中に潜んでいる理屈はこうなんじゃないかという仮説の設定能力が高いからなんですよ。感覚でやってたらソリューションの改善は行き当たりばったり。限られた資源しかないスタートアップ期の社会起業家がそれじゃマズいんじゃないですか?

じゃあ何故、彼・彼女らは(ETICのスタッフも含めて)論理による事業モデルの洗練が上手くないのか。人脈とかコミュニティとか補助金とかワークショップによる事業のステージアップという方法論に偏るのか。

論理的に考えてみたら良い練習になると思いますよ。