失われた3年

 3年前、国会で全会一致でアイヌを先住民族と認める決議が採択された。続いてウタリ協会がアイヌ協会に名称を戻し、「アイヌ政策のあり方に関する有識者懇談会」も設置された。報告書も発表された。これで日本におけるアイヌの状況は変わるかと期待していたが、全然そうならなかった。

 自民党から民主党への政権交代があり、泥沼の権力闘争が延々と続いて、アイヌ政策は棚晒しにされた。また、アイヌの側も変わっていこうという動きが全体として見れば乏しかったように思う。たしかに国会決議にこぎつけたのは大きな前進だったが、そこで政治運動には一区切り付けて、もっとソフトの開発に力を入れるべきだったと思う。

 学生たちの中にはアイヌに興味を持つ者もいるが、それではと本を開いてみてうんざりしてしまう。何しろ楽しい話が一つも無いし、魅力的なソフトが殆ど何も無い。アイヌレブルズは解散し、リーダーだった酒井美直さんも今はどこで何をしているのかよくわからない。OKIさんや結城幸司が頑張っているのは事実だが、彼らにしてもあまりにも立ち位置が(思想的に)ニューエイジ・(政治的に)社民党方面に偏り過ぎている。

 たしかにニューエイジと社民党マーケティングで一定のところまではすいすい支持者を集めて来られただろう。というより、ニューエイジ市場でのみ通用するソフトしか無かったし、政治的には社民党と組むのが一番相互メリットがあったのだとも思う。

 しかしいつまでもその方法論を引きずっていては、次に進めないのではないか。新しいソフトを開発して市場に投入し、新しいマーケットを創造し、自分たちのファンを増やすという発想が必要だ。そのためには資金が要るし、コミュニティの外部で協力してくれる企業や人材も多ければ多いほど良い。だが、コミュニティを代表しているような人々が原発即時全廃という先鋭的な主張を掲げ、電力会社や経済官僚を罵るツイートを毎日のように発信していたらどうなる? 自分が企業経営者なら、ちょっとこの人たちとは組めないと判断するだろう。資金を用意し、ソフトを開発し、販路を開拓し、市場に投入した挙げ句に、そのチャンネルを通してラジカルなメッセージを発信されてしまったならば、ソフトの商品力も落ちるし自分の会社のイメージも低下してしまう。・・・・危険過ぎる。

 もっとわかりやすい喩えをしよう。電力会社や経済界を敵視し、カネの亡者扱いするようなアーティストとルイ・ヴィトンやユニクロが組むだろうか? ホンダやドコモがCMに起用するだろうか? するわけがないではないか。「お金より命が大事」? 違う。カネは命を支えるものだ。食糧も燃料も原材料も日本は国外から買い入れなければ1億3000万の人口を支えられない。その為のお金はどこから来る? 買い入れた原材料を、エネルギーを使って加工し、付加価値を生み出し、外国に商品を買っていただく。そうして手に入れたお金で日本の生命は支えられている。そこが理解出来ない限り、永遠にマイナーなままだ。

 マーケットが創れる予感はある。東京に住むお洒落な女子大生たちの中にも、アイヌへの興味はそれなりに存在している。彼女らに商品アイデアを考えさせたことも2度あるが、そのどちらにおいても、これはと膝を叩くようなアイデアが沢山出てきたのだ。だが、アイヌの側にも熱い心と冷徹な政治戦略を併せ持ったビジネスパーソンが現れない限り、3年前に皆が夢見たような未来の扉は開かないだろう。