手直し

 後期が始まって半月が過ぎました。2年生のゼミの方は、もう学習共同体としてかなり完成しているので、私がやることはかなり少なくなった感があります。全体のディレクションとか課題の指示を出しておけば、後は学生たちの方でだいたいやってくれちゃうんで、楽になりましたね。4月5月みたいにイチから十まで手取り足取りというのではないから。その分、前期も夏休みも徹底的に手をかけてきたので、差し引きすりゃあ同じなんですが(笑)

 1年生ゼミは、今年度で終わり(来年度も引き続き・・・というオファーはありましたが、他の講義がかなり増えたので育児や家事のことを考えると難しいですとアタマを下げました)なので、集大成のつもりで取り組んでいます。とはいえ、過去3年間とは大きく変えた部分もあります。今まではとかくヌルいとかアマいと言われがちな立教大の学生に喝を入れる為、ひたすら読み書きの実力を付けさせる方針でやってきました。君たちこれに付いて来られないようなら社会に出ても一流の仕事は出来ないぞとね。もっと自分を追い込め、見聞を広めろ、アクティブになれ。その方向性でやっていたわけです。

 いや、今年度も厳しく鍛えることに変わりは無いですし、ちゃんと毎週3000字くらいの読書レポートを書かせてはいるんですが、過去2年間、最初に読ませていた阿部謹也先生の『自分の中に歴史を読む』を今年は止めて、2000年代前半の小泉竹中ブッシュ的ネオリベ&グローバリズムを論じた『Do! ソシオロジー』の何章かを導入にしてみました。というのは、阿部先生の本は自分の内面と対話しながら学問の道を探求しなさいというものなんですけれども、今彼らに必要なのは、そういう個人の内面を掘り下げる本じゃないのかもしれないと感じたからなんです。

 最初に私が1年ゼミを担当した年は、丁度、団塊世代の大量退職があって、学生の新卒採用は超売り手市場でした。2007年ですね。だから1年生の雰囲気も何となく甘かった。翌年にはリーマン・ショックがあってちょっと雰囲気が変わり、去年になるとどうやら自分たちが就活する頃にも不況のまんまだよなという認識が一般的になっていて、学生たちの姿勢もかなり真面目になっていたと思います。なんせ昨年度は全員が単位取りましたからね(笑)。

 そんで今年。学生たちのレポートを読んでいると、とにかく大変な時代だから自分のスペックを徹底的に上げて就活で勝ち抜こう、その先の仕事人生も生き延びよう、万が一整理解雇されても再就職出来る力を身に着けようという論調が支配的です。危機感に満ちあふれている。

 それは決して悪いことではないですよ。でも、ちょっと違うだろと私は思うのですね。勝ち抜く為、生き延びる為に自分を徹底的に鍛え上げる。他人より少しでも上に行けば自分の勝ち。とにかく自分は生き延びるんだ。それって、あの2000年代前半の小泉竹中時代に蔓延した価値観そのものでしょう。社会の上から下までその価値観を内面化して、それでどんな世の中になりました? 個人的には思い出すのも嫌な、日本全体がブラック企業だった時代だと認識しています。

 だから今年度は話の重点を変えました。
 君たちは、自分だけはとにかく生き延びようという発想で就活したり、仕事をしてはいけません。仕事の基本は隣人愛です。誰かの役に立つことで仕事は成立する。自分以外の誰かの幸福を真剣に追求出来る人でなければ、最高の仕事は出来ません。金儲けをしたかったら心に隣人愛を持ちなさい。そうでないやり方の金儲け(ブラック企業)は、一時的にはボロ儲け出来ても長持ちしません。

 また、あなたたちがこの立教大学に入ってきたということは、既にあなたたちは立教大学という共同体のメンバーになったということです。沢山の校友や教職員があなたたちを支えています。あなたたちは自分一人で学び、自分一人で就職し、自分一人で働くのではありません。私たちは支え合うことでそれぞれの人生を歩んでいけるのです。困難に直面した時には、立教大学という共同体があなたを支えようとしていることを必ず思い出しなさい。そして、誰かが困難に直面している時には、あなたが支えてあげなさい。

 就職はゴールなのではなく、スタートなのです。その仕事に就いて何をするか、あなたがそれまでに蓄えた力を、誰のために、どのように使うかを考えなければいけません。立教大学社会学部であなたたちが学ぶことの大半は、即仕事に役立つ内容ではありません。けれども、それらをきちんと学んでおかなければ出来ない大切な仕事が世の中にはあります。あなたが、「これは自分がやらなければならない仕事だ」と確信出来るものに出会った時に、それをやり遂げられる力があなたに備わっているように、今は「これが何の役に立つのか」という問いを一旦捨てて勉学に取り組んでください。

 もしかしたらこういう話は、社会学部現代文化学科の発注内容からはちょっとズレているのかもしれません。ただね、去年、拓海広志さんに言われたんですよ。「加藤さん、学生たちには学問よりも人生についてまず教えてください」とね。

 さて、学生たちは私の話をどう受け止めたのか。何となく、理解してくれているような気はしますけど。