『アイヌ式エコロジー生活』

 今日は本の紹介です。

さとうち藍『アイヌ式エコロジー生活:治造エカシに学ぶ、自然の知恵』小学館、2008年

 ご存じ浦川治造エカシを主人公にした2冊目の本です。『アイヌの治造』がエカシの半生を描いた伝記だったのに対して、こちらは主にエカシの現在の活動を様々な角度から紹介する本と言えるでしょう。特に「カムイミンタラ」での活動が中心ですね。『アイヌの治造』が(現在のあきる野市の)養沢谷にエカシが活動の拠点を置くまでを扱っていますが、その後に養沢谷の拠点が地主の代替わりで立ち退かざるを得なくなり、千葉の君津に移られたわけです。その君津でエカシが幼少時の記憶をたどりながら、少しずつアイヌの伝統的民具や家を自分の手で作りだしていく課程が、豊富なカラー写真とともに紹介されています。

 結構、良い本です。

 問題は、しかしこういった本が沢山出ることによって、アイヌのイメージがアイヌ以外の人々によって再び描かれていってしまうことでしょうね。

 アイヌ問題は今まさに中央の有識者懇談会で議論が展開されているのですが、それについて我々が考えようとするとき、アイヌ自身の筆で書かれた本が異常に少ないことに気がつきます。研究者によるアイヌ関連の学術書は沢山ありますし、近年のエコロジー関係にアイヌを引きつけて、いわゆるLOHASの文脈でアイヌを語るこういった本も多い。

 ですが、現代のアイヌが自らについて、自らの言葉で語った本はあるのかというと、管見の限りではそういうものは存在していません。これは歪な状況だと私は思います。だから、今こそ何とかして結城幸司さんに本を書いて欲しい。以前から結城さんに口を酸っぱくしてお願いしているのですが、何とかならないものか。いや本当に。

 結城さんの話は面白いです。「現代の等身大のアイヌ」を今、最も説得力のある言葉で語れるのは彼だと私は信じています。

結城さんの講演会の記録(お勧め)
http://www.frpac.or.jp/rst/sem/sem1911.pdf