『アイヌの治造』

 さて、直前のような記事は書く方も決して楽しいものではないので、口直しに素敵な本の紹介をしてから寝ます。

原田詠志斗『アイヌの治造』「アイヌの治造」刊行会、2002年

 タイトルでピンと来た方もおられるでしょう。この本は横浜でホクレアの為のカムイノミを行ってくださった、日高アイヌの浦川治造エカシの一代記です。浦川エカシの子供時代の思い出、中学時代、就職、結婚、事業の成功と挫折、関東に移住してからの活動などが、エカシの言葉を最大限生かした文体で綴られています。

 自主出版の本なので若干入手が難しいのですが、中身は、そりゃあ面白いですよ。ただもんじゃないです。当たり前ですが。浦川エカシの生まれ故郷は日高の荻伏という村の姉茶という集落。グーグルマップで調べてみたら、何と歌笛集落の隣(直線1キロくらい)でした。歌笛というのは、あのオグリキャップの生まれ故郷である稲葉牧場がある場所です。

 浦川エカシが生まれたのは昭和13年。その頃の姉茶はアイヌも和人も等しく貧乏で、エカシも小学生の頃からひたすら家の手伝いに明け暮れたそうです。田んぼで米も作っていたそうですけれども、殆ど口には入らず、米を食べられるのは祭りの時くらい。実家は伝統的なチセで、冬場など朝起きたら布団が凍っているのが当たり前だったとか・・・。

 それで、凄いのは、中学校にはいつも村田銃(日本陸軍払い下げの軍用銃)を持っていって、学校の帰りには小動物を撃ってオカズにしていたという逸話。素手でオスのエゾシカを何匹も殺してオカズにしていたとか、カスミアミでスズメを沢山捕まえてオカズにしていた話も、現代に生きる我々にはなかなか想像がつかないですね。ある冬に、あまりにも食べ物が無かったので可愛がっていた愛犬を殺して食べた(その後でちゃんとお父様がカムイノミをされたそうですが)話など、胸が詰まります。

 成人されてからの武勇伝も本当に面白いのですが、これは実際に読んでみてのお楽しみ。お買い上げはこちらから。

http://www.kamuymintara.com/mintara/books.htm

 ちなみに浦川エカシのお姉様の息子さんが俳優の宇梶剛士さんだそうです。