「おかあさんといっしょ」にアラン・スティーベルが

 息子が好きなんで、昨年から毎日「おかあさんといっしょ」を見ております。調べてみたらこの番組、私が生まれる前から続いている歴史あるものなんですね。私も子供の頃に見ていたんでしょうか。全然憶えておりません。

 さて。前から気になっていたのですが、この番組用に製作されている楽曲のアレンジ、子供向けと馬鹿にしたもんでないというより、無理にレコードの売り上げを稼がなくても良い分面白いものが多いようです。作り手の趣味が結構ストレートに出ている。

 最近驚いたのは、アラン・スティーベルとかドーナル・ラニー・クールフィン丸出しのアレンジの「まんまるスマイル」。作詞作曲とも中西圭三さんなのですが、アレンジは違う人なのかもしれません。こんなの幼児向け番組でやって良いのか? というくらいに攻め込んだアレンジですよこれ。何しろ歌い出しからどう考えてもメロディ優先で歌手のことを考えてない変態な符割り(「な~ん~だかんだで~ い~つ~も一緒だね~」)。幼児には絶対歌えませんがな。Aメロはフリジアンスケールを思い切り使ってるし(A→D→E→Aの循環コードなのにC#から始まる歌メロ・・・)、音域もオクターブ+長3度だし。

 でも、Aメロにフリジアンを使ったおかげで平行調に転調したBメロの機能和声的なメロディとの対比がばっちり決まってるわけです。サビのメロディはイオニアンになるんですが、ヴォーカルの裏に入っているティンホイッスルとの絡みがやたらマニアック(笑)。本当はアレンジャーさんはバグパイプでやりたかったんだろうなあ、とか。

 今までに聴いたのはアルバムバージョン(横山だいすけ+三谷たくみのツインヴォーカル)、ライブバージョン(恵畑ゆう+かまだみき)、アコースティックバージョン(横山だいすけ+三谷たくみ)の3種類ですけども、どれも良いですね。三谷たくみもかまだみきも「うたのおねえさん」なんで、「うたのおねえさん」的な歌唱法になるのですが、これが「うたのおにいさん」の声とブレンドされると私の耳には非常に心地よい。先祖代々の日本列島人女性に独特の声質と申しましょうか。白人や黒人の女性ヴォーカルに比べればはっきり線が細いんですが、その代わりに繊細で玄妙な音色が宿るように思います(その最もわかりやすい例が松田聖子)。

 昔は日本の女性ヴォーカリストはパワー不足でいかんよなあとか思っていたのですが、最近私は考えを変えましたね。この味は白人にも黒人にも絶対に出せない。これが魅力なんだと。

 ケルティック・フリンジのエレクトリック・フォークと「うたのおねえさん」「うたのおにいさん」が出会ってこんな名曲・名演が生まれたというのは、予想外でしたけれども本当にめでたいことだと思います。

追記:サビの「歌おう声合わせて~」の部分のハモりがどうも耳慣れない、別の言い方をするならば「売れ線ポップミュージックではあまり聞かない」響きなので、何度か再生して調べてみたのですが、どうも「うたのおねえさん」は「うたのおにいさん」の担当するメインのメロディーに対して完全4度と完全5度でハモっているようです。

普通の売れ線ポップなら3度(短3度と長3度)上を使いますからね。ハモりのアレンジでも攻め込んでますな。わかりやすく言いますと、ロック系の電気ギターの演奏で基本になるのが1度+5度という重音で、これは短調でも長調でも関係無く使えるかわりに、響きとしては前にガツーンと出てくる(3度音程ならふわっと広がる)。

「おかあさんといっしょ」なら3度のハモりにしそうなものですが、そこで敢えて完全4度/5度でハモらせたんでしょうねえ。きっと平行5度(古典的な和声学では禁止)とか平気でぶちかましてるんだと思います。すげーよ。