日米就職景色

 『東洋経済』誌(私が唯一読んでいる経済誌)に、大学生の就職先人気ランキングが掲載されていました。

 まあこの手のランキングは色々なところで作っていますし、特に興味を惹かれるものでもないのですが、アメリカの方のランキングが今、面白いことになってるんですよ。

 『ビジネスウィーク』誌が毎年調査している就職先人気ランキングは結構あちらでは注目されているようなのですが、2007年10月発表のランキングに異変が起きたんですね。

 ちなみに2006年のベスト10はというと

1 ウォルト・ディズニー(説明不要)
2 ロッキード・マーティン(軍事メーカー)
3 デロイト&トウシュ(大手会計事務所)
4 ゴールドマン・サックス(銀行)
5 エンタープライズ・レンタカー
6 オレゴン州政府
7 レイセオン(軍事メーカー)
8 ゼネラルエレクトリック
9 JPモルガン(証券会社)
10 アボット研究所(薬品メーカー)

 まあこんなとこですよね、普通は。

 じゃあ2007年。

1 デロイト&トウシュ(大手会計事務所)
2 プライスウォーターハウスクーパース(大手会計事務所)
3 エルンスト&ヤング(大手会計事務所)
4 IBM
5 グーグル
6 マイクロソフト
7 ウォルト・ディズニー
8 アクセンチュア(経営コンサルタント)
9 ロッキード・マーティン(軍事メーカー)
10 ティーチ・フォー・アメリカ(NPO)

http://bwnt.businessweek.com/interactive_reports/career_launch/index.asp

 何とNPOが就職先人気ランキングの全米トップ10に入っている!!! 

 上のリンク先を見てもらうとわかりますが、年俸が良いとは到底言えないんですよ。他の人気就職先がだいたい新卒年俸で55000ドルから60000ドルなのに、ここだけ35000ドルから40000ドル。何故、何故こんなことになったのか?

 もちろんこれには仕掛けもあります。このティーチ・フォー・アメリカというのは、簡単に言えば「全米でも最優秀レベルの学生を2年間、貧困地域の公立学校に教師として派遣する」というプログラム。日本で言えば海外青年協力隊の教育界版ですね。ただし人材の質を徹底的に上げている。全米で最優秀レベルということは、言い換えれば世界最優秀クラスの学部学生です。アイビーリーグやUCLAやMITなどの名だたる大学の、更に一番上のクラスを採用しているわけです。そして彼らが送り込まれるのは、教師のなり手さえなかなか見つからないような地区の公立学校。

 ということはどうなるのか? 日本でもそうですが、公立の教育困難校の教員というのは想像を絶する激務です。そこで結果を出そうとするならば、全知全能を振り絞らなければならない。もともとお勉強は抜群に出来る連中が、そういう所で2年間揉まれて来れば、これは企業としても放っておけない人材になっているのですね。だからティーチ・フォー・アメリカの出身者は、大企業が奪い合って採用したがる。

 一方、教育困難校としても、世界最優秀の人材が2年間限定とはいえ使えるというメリットがある。更に言えば、ティーチ・フォー・アメリカに参加した後、教育界に留まる人間も2割とか3割の割合で存在します。彼らとて、決して「その後のビジネスキャリア」だけが目当てでティーチ・フォー・アメリカに応募するわけではないのです。

 いかがですか。私は日本の公立学校の教員は世界屈指の精鋭部隊だと思っていますから、アメリカと単純に比較することは出来ませんけれども、日本でもこういった仕掛けがあったらどうでしょう? 日本の教育界が今抱えているのは、人材の質ではなく量の問題です。質そのものは粒ぞろいで献身的に働く教員を揃えていますが、何せ数が絶対的に足りないし、しかも問題はそういったことが殆ど知られていないから、教員を叩けば良いという風潮が蔓延している。

 であれば、日本でもティーチ・フォー・アメリカのように最優秀の学生を精選して期間限定で教育現場に「増援」として送り込む。これで現場のマンパワーを少しでも増やし、また公教育を他人の責任ではなく自身の責任として考える人間を社会に増やせるのではないでしょうか。