横浜シンポジウム報告その2・藤崎達也さん

 アイヌの話が出たところで藤崎達也さんです。藤崎さんはアイヌではありませんが、阪神淡路大震災をきっかけに一念発起して知床に移り住み、北海道島の先住民文化と観光の融合に取り組んでおられる方。

 その藤崎さんと盟友の結城幸司さんがずっと取り組んでおられるのがアイヌのカヌー「レプン・カムイ」建造プロジェクトです。この舟には色々なエピソードがあるので、まずはそちらをお読みください(藤崎さんのお話しになった内容のほぼ全ては以下のページに書かれています)。

タイガー・エスペリ氏との出会いについて
http://www.shinra.or.jp/archives/tatsuya/001740.php

タイガー氏の教えを守ってレプン・カムイの為の木を見つけ出した話
http://www.shinra.or.jp/archives/tatsuya/002175.php

「レプン・カムイ」プロジェクトの概要と意味について
http://www.sipetru.jp/spirit/gaiyo.html

現在、藤崎さんや結城さんのNPOが取り組んでいる先住民文化エコツアー
http://www.sipetru.jp/spirit/tour.html

「レプン・カムイ」プロジェクトの現状
http://www.sipetru.jp/spirit/index.html

 このプロジェクトが非常に新しいところは、カヌーの建造作業そのものを観光資源にしている点です。現代の航海カヌー復元プロジェクトはこれまで寄付金+ボランティア形式(アリンガノ・マイスなど)や、公的助成金形式(ホクレア、ホクアラカイ)、あるいは酋長・首長主導のプロジェクト(ペサウ、ヴァカ・タウマコ、ムソウマル)大学による建造(イオセパ、アオテアロア・ワン)といった形を採ってきました。これらはそれぞれに利点も意味もあるわけですが、通りがかりの人が気軽に参加するというわけにいかない点に難しさもありました。

 例えばボランティア形式で建造されたアリンガノ・マイスの例を考えますと、あれはハワイ諸島という割と一体性のあるコミュニティのプロジェクトであって、「航海カヌーって何ですか? マウって誰ですか?」という人が参加するということは、(学校の生徒などコミュニティのメンバーでもない限り)難しかった。

 一方、この「レプン・カムイ」プロジェクトでは「アイヌって何ですか? イタオマチプって何ですか? それ食べられるんですか?」って人もベリー・ウェルカムなシステムになっています。むしろ、そういう方々にアイヌのことを学んでもらいながら、同時にカヌー造りというアクティヴィティを楽しんでもらい、しかもカヌー造りも進むという仕組み。唯一の難点は「時間がかかる」ということだそうですが、これはもうしょうがないでしょうね。

 藤崎さんによると、そうやって観光客の方々にもカヌー造りに関わってもらうことで、「レプン・カムイ」という舟をシェアしてもらうという目論みもあるようです。つまり「レプン・カムイ」が完成した暁には、観光客としてこの舟に関わった沢山の方々が「あれは自分も建造に参加した舟なんだ」という形で繋がりを感じられるわけですね。

 これは天才的な発想だと思います。まだあまり注目されてはいませんが、このアイデアは太平洋の航海カヌー文化復興運動の世界に新しいものを付け加えたと言えます。ナイノアさんが北海道に来たら、是非とも自慢して欲しいですよ。