『野生のナヴィゲーション』

 今日は本の紹介です。

 野中健一・岡本耕平・高田明・大村敬一・口蔵幸雄・秋道智彌・村越真『野生のナヴィゲーション:民族誌から空間認知の科学へ』古今書院、2005年
http://www.kokon.co.jp/h1497.htm

 研究書ではありますが、かなり読みやすいです。中身は、そうです、民俗航法技術の比較研究。

 登場する民俗航法技術は以下の目次の通りです。

第1章: 野生のナヴィゲーションとは何か
第2章: 砂漠の道標--セントラル・カラハリ・ブッシュマンのナヴィゲーション技術
第3章: 旅の経験を重ねる--極北に生きるカナダ・イヌイトの知識と実践
第4章: 森を歩く--マレーシア狩猟採集民の地形認識と水系の利用
第5章: 水平線の彼方へ--太平洋,中央カロリン諸島の海洋空間と位置認識
第6章: ナヴィゲーションのスキルと発想

 面白いでしょう。ナヴィゲーションというと、我々航海カヌーマニアはすぐにリモート・オセアニアの伝統的航法技術を思い出すわけですが、この本では、それをアフリカのサバンナを行くブッシュマンの航法技術や、北極の氷原を行くイヌイットの航法技術、あるいはマレーシアのジャングルでの航法技術などと並べてみせ、こういった民俗航法技術の広がりを教えてくれているのですね。

 「スター・コンパス」や「ウィンド・コンパス」、さらに外洋のうねり(海洋波)や生物相(島々を取り巻く「生命の環(エクスパンデッド・ランドフォール)」などを利用したリモート・オセアニアのいわゆる「スター・ナヴィゲーション」は、もちろん偉大な技術です。しかし、同様に素晴らしい航法技術は、野に山に氷原にあるいは大森林に、ホモ・サピエンス・サピエンスの行くところ、どこにでも創発していたという盲点。

 これ、自転車で遠出をするようになって私にもすごく実感出来るんですよ。私も雲の色や形、見え方、位置、あるいは太陽の方角や風向きなどを参考にして、自分の大まかな位置を読めるようになってきてるんです。あの場所では風はたいがいあちらから吹くとか、あの橋を境にして風の吹き方は必ず変化しているとかね。

 人間には本来、かなり高性能な航法能力、あるいはその卵のようなものがあるような気がします。言語能力などと同じように、適切な環境に置いてやれば、この航法能力が目ざめ、発達していく。それを磨くには、敢えて南太平洋に行かなくとも、あるいは海に出なくとも良いんです。航法の勉強はどこででも出来る。川でも野原でも街中でもね。

 おそらく日本列島の野や山にも、民俗航法技術が考案され、伝承されていたことでしょう。その大半は失われてしまったのかもしれませんが、今からでもそういった技術の痕跡を探索し、復元を試みてみたいものです。