夜のナヴィゲーターたち

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 レセプションではマニア的に言えばもう昇天ものの経験をさせていただきました。チャド・バイバイヤン船長、ブルース・ブランケンフェルド船長、タヴァ・タウプ氏、キモ・ヒューゴ氏らホクレアの歴史を創ってきた英雄たちのお話をそれぞれじっくり聞かせていただいたわけで・・・といってもマニア以外には何のことやらという、非常にマイナーな世界ではあるのですが。

 それぞれのお話はまた改めて記事にします。とりあえずレセプションが終わった後のエピソードだけ紹介して寝ます。

 例によって尻が重い人たちですから、なかなか会場から動こうとしないのですが、私が会場から出てみると、ナイノア・トンプソン、ブルース・ブランケンフェルド、ナアレフ・アンソニー、シェリー・シェハタら各氏が宿舎に戻るところ。ですが彼らは露骨に道に迷っている様子でした。ところがナアレフ・アンソニーさんなど、「ヘイ、俺達の道案内は世界最高のナヴィゲーター2人だ! 安心して付いていこうぜ!」とか無責任に盛り上がってます。

 私が心配そうに眺めているのに気付いたブルース・ブランケンフェルド船長、こりゃ好都合とばかりに私に地図を渡して「ヘイ、カトーに任せよう!」

 おいおい、あんたポゥの儀式まで済ませた航法師がそんなのアリかよと思いましたが、地図を見てみると彼らの宿舎は駅のすぐ近く。まあ遠回りですが送っていくことにしました。かくしてナイノア・トンプソンとブルース・ブランケンフェルドのナヴィゲーションを担当するというとんでもない役割を仰せ付かった私なのです。ブルースさんには、道すがら、少しだけエディ・アイカウの話も聞かせていただきましたよ。

 さて。かなり歩いたところで横断歩道の信号待ちをしていると、突然クルーがあらぬ方向に吸い寄せられて行きます。

「旦那たち、何やってんすか?
「ハワイアン・ダイニングがあるんだよ!」
「はぁ? 里心でもついたんすか?」
「いやあ、メニューを見てみようと思ってね。」

 とか言って店の前で大はしゃぎですよ(画像)。しかも先頭切ってるのがポリネシア航海協会の会長ですよ。公式の場に居る会長とはもう別人のように楽しそうな顔で、仲間たちと騒いでます。こういう瞬間だけがホッと出来るんでしょうねえ。

 その会長、ハワイアン・ダイニングの辺りで現在位置を把握したらしく、ぐいぐいと一団を引っ張っていきます。ここでナヴィゲーター交替ね。でも少し心配なんで、一応付いていくことにしました。

「ヘイ、チャイナタウンだぜ!」とブルースさん。
「何ですか? 今度は中華街に行きたいんですか?」
「いや。でも綺麗な門じゃないか。」

 ナイノアさんは完全に自分の位置を理解しているようですが、地図なんかは持っていないんですよ。でも「カトー、あっちに行けば山下公園だろ?」とか「あっちにあの大きな船(氷川丸)があるんだよな?」とか、すげー正確です。ウェイファインダーめ。あ、ちょっと会長、信号の色が・・・・。素顔の会長は結構やんちゃです。

 氷川丸で思い出しました。

「トンプソンさん、沖家室でお会いした松本さんを憶えてますか? 釣り針職人の。」
「ああ、もちろんだよ。」
「あのおやじさん、65年前にはあの氷川丸のエンジン直してたそうですよ。」
「すごいな。」
「俺は何のエンジンでも直せるって豪語してますから。」
「はっはっは。そうそう、宮島の老人を憶えてるかい? 魚を沢山釣ってきてくれた。」
「大島さんですね」
「そうだ。あの方も沖家室の松本さんの釣り針を愛用してるそうだよ。」
「それは知りませんでした。松本さんの釣り針はもう使ってみましたか?」
「とんでもない。あれは宝物だから大事に家にしまってあるよ。」
「トンプソンさん、あの時あなたは沖家室の人たちに、今度は奥様を連れて来ると約束しておられましたね?」
「ああ。そのつもりだよ。」
「良かった。それを聞いて安心しました。」

 そうこうしているうちに港湾局M氏が出現。

「あれ? Mさんじゃないですか。」
「うちの事務所がこのビルなんですよ。」
「まだこれから仕事なんですか?」
「ええ。」

 ちなみに21時です。

「トンプソンさん、彼は毎日本当に遅くまで、皆さんの為に働いてるんですよ。」
「ありがとう!」

 宿舎が見えて来ました。宿舎の前にはハワイ州観光局K氏やクルーが立っていました。K氏、というかハワイ州観光局の皆さんも、もう何ヶ月単位で休日というものが無いそうです。ここにも華々しい航海の影で馬車馬のように働き続ける人々が。

 最後にブルース船長にご挨拶。ブルースさんは今週中には帰国されるそうで、残念ながら次にお会い出来る機会があるかどうかもわかりません。本当に魅力的な人物で、いつまででも話をしていたかったのですが・・・。最後にブルース船長はぐっと私を抱きしめてくれました。うほっ。